雑種の魅力は…「どんな風に育つのか未知数なところ」 命の瀬戸際にいた犬たちがドッグスポーツや登山で成長

岡部 充代 岡部 充代

「雑種好き」を公言する佐藤裕子さんは現在、12歳のシフォンちゃん、3歳の桜夢(ラム)ちゃんと暮らしています。もちろん2頭とも雑種。血統書もなければ品評会に出ることもありませんが、「2頭は私を成長させてくれるために出会った犬たちです」と胸を張ります。

 シフォンちゃんを迎えたのは奈良で一人暮らしをしていた頃。佐藤さんの「雑種好き」を知る友人からのSOSがきっかけでした。繁殖場でワイヤーフォックステリアとトイプードルが“かかって”しまい、生まれた子犬。そこはかなり劣悪な環境だったようで、母犬は疥癬症(かいせんしょう)という激しいかゆみを伴う皮膚病でしたが適切な治療を受けさせてもらえず、シフォンちゃんも感染していたと言います。その状況を知った友人から「助けてほしい」と連絡があり、佐藤さんは「その子の“犬生”を最期まで一人でみられるか」を熟考した上で引き取る決断をしました。

 

 一方の桜夢ちゃんは広島・福山市内で捕獲器に入り、市の動物愛護センターに保護された野犬の子供でした。佐藤さんとの出会いは「いつでも里親募集中」という犬や猫の里親募集サイト。桜夢ちゃんはきょうだい犬と一緒に預かりボランティアさんの家で暮らしていたのです。当時、佐藤さんは結婚して滋賀に移り住んでいました。そこで庭付き平屋一戸建てという犬と生活するには理想的な家を借りることができ、また専業主婦になったことから、もう1頭迎えようと考えたのです。

「ペットショップなどでお金を出して犬を買う、という感覚は子供の頃からありませんでした。母の影響が大きいのですが、実家で飼っていたのも山に捨てられていたのを弟が拾ってきた犬でしたし、その子が亡くなったら保健所から犬を引き取って田舎に住むのが母の夢でした。残念ながら夢をかなえる前に亡くなりましたが、そうした母の言葉が強く残っているんです。犬は“敢えて飼う”ものではなく、人生の節目で“必然的に出会う”ものだという思いもありましたね」(佐藤さん)

 シフォンちゃんと桜夢ちゃんは、佐藤さんご夫妻と一緒にアジリティーやエクストリームといったドッグスポーツや登山を楽しんでいます。シフォンちゃんはドッグダンスをしていた時期もあり、関西地区の競技会ではビギナークラスで5位、アドバンスクラスで2位に入賞した実力派。エクストリームでも飼い主との一体感などが評価ポイントで、その日一番輝いていたペアに贈られる「特別賞」を裕子さんと2度、ご主人と1度受賞したことがあります。いかに“息ピッタリ”か分かりますね。生後8か月からエクストリームを始めた桜夢ちゃんも“お姉ちゃん”に追いつけ、追い越せで頑張っています。

 シフォンちゃんは4歳のとき、右脚を手術。先天性のものだったので、左脚にも発症する可能性があり、スピードなどの競技性よりも“楽しむ”ことを重視していますが、それこそが佐藤さんがドッグスポーツをやりたいと思った原点です。

「登山もそうですが、犬がしたいと思うこと、楽しいと思うことをやらせてあげたいんです。山へ行くと2頭の目が違う。特に桜夢は、気になることがあると獣道でも進んでいくし、穴があれば顔を突っ込む(笑)。怖がりで普段のお散歩は好きじゃないのに、山では五感をフル活用して楽しんでいます。野犬の子だから野生の血が騒ぐんですかね。それもまた雑種の魅力。もちろん、私たちも楽しんでいます。登山にしてもドッグスポーツにしても、1つのことをみんなで楽しめる、楽しい気持ちを共有できるのがいいですよね」(佐藤さん)

 500メートルくらいの山を人が少ない平日に登るのが佐藤家流。それでもすれ違う登山者はいて、シフォンちゃんと桜夢ちゃんは人気者だそうです。

 最後に改めて、雑種の魅力について聞いてみました。

「どんな風に育っていくか分からない、未知数の楽しみがありますよね。トイプーとかチワワとか純血種には教本があるじゃないですか。犬種の特徴や育て方が書かれた『〇〇の飼い方』みたいな本が。でも雑種にはない。だからこそ、自分がどんな風に育てていきたいかを考えて、その子のいいところを伸ばしてあげるのが好きなんです」(佐藤さん)

 命の瀬戸際から救い出され、人間と一緒にいろいろな経験をすることで、生き生きと暮らすシフォンちゃんと桜夢ちゃん。そして、佐藤さんもまた、2匹がそばにいてくれることで、より充実した人生を送っています。

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