ミックス犬の悲劇? 先天性脱毛症でブリーダーに飼育放棄された兄弟犬。それぞれ家庭犬として幸せに

岡部 充代 岡部 充代

 最近流行りのミックス犬。雑種犬との違いは親犬がはっきりしていて、純血種同士を人工的に交配することによって生まれた犬、ということのようです。チワワ×プードルの「チワプー」、マルチーズ×プードルの「マルプー」、チワワ×ダックスフントの「チワックス」などが代表例でしょうか。

 

 マルチーズ×ペキニーズの桃太郎君は繁殖場で生まれました。人気のミックス犬ですから、ブリーダーは高く売れると思っていたかもしれません。でも、兄弟犬と桃太郎君の2匹は先天的な脱毛症で、頭部にも胴体にも毛の生えていない部分が多くありました。残念ながら、これでは売れません。生後2カ月のときブリーダーは飼育を放棄。小型犬の保護・譲渡活動を行っているは『岡山保護犬日記』さんが引き取ることになりました。2019年8月のことです。

 2匹に付けられた仮の名前は「テント」と「タープ」。テントはたれ耳でタープは立ち耳という特徴があり、どちらも愛らしい顔立ちをしていました。脱毛症の原因は不明でしたが、他の犬に感染するような皮膚病ではありません。2カ月もすると、里親希望のご家族が現れました。しかも、2匹一緒にといううれしい申し出! ただ、そのおうちには小さいお子さんがいたこともあり、「責任を果たす自信がない」と、テント君だけが卒業することになりました。命にかかわる病気でなくても、病院通いが続いたり、他の子より手が掛かるかもしれません。「2匹同時に迎えて本当に責任を果たせるのか…」。悩みに悩んだ里親さんはとても誠意のある方だと思います。

 

 さて、タープ君はどうなったかといえば、レスキュー当初からかかわっていた岡山市在住の大橋祐子さんが「うちの子に」と手を挙げてくれました。

「ずっと気にはなっていたんです。どちらか1匹迎えたい気持ちもあったのですが、うちにはすでに3匹の犬がいましたし、もっといい里親さんが見つかるならそのほうがいいだろうと。でも、タープが残っていると聞いて、それならうちでと思ったんです」(大橋さん)

 テント君の卒業前から、どちらかといえばタープ君のほうが気になっていたという大橋さん。直感的なもの以外に、タープ君のほうがより毛が薄かったから、という理由もあったようです。

「テントはすぐに里親さんが見つかるだろうなと思っていました。タープのほうがハゲてましたからね(笑)」(大橋さん)

 

 2019年11月に大橋家に迎えられたタープ君は、桃太郎君と名前を改め、4兄弟の「末っ子長男」となりました。かなりやんちゃで、家の中は傷だらけ。「ふすまはボロボロだし、こたつの足やカーペットもボロボロ。いたるところが壊れました」と話す大橋さんは豪快に笑っていました。

 脱毛症は「脱毛症Ⅹ(エックス)」と診断されています。原因不明の犬の脱毛症で、痒みを伴わない脱毛を起こす病気をこう呼ぶのだとか。メラトニンを継続的に服用中で、「少しずつ生えてきているんですよ!」と大橋さん。皮膚と耳の病気は対象外ですが、ペット保険にも入れましたから、それ以外はいたって健康ということです。

「犬の皮膚は人間よりずっと薄いと聞くので、紫外線が強くなるまでに、もう少し生えてくれればと思っています。できるだけキレイに生えてくるように、もつれて切れ毛とかになりやすい服は、冬の間もできるだけ着せないようにしているんですよ」(大橋さん)

 

 桃太郎君にとって何が最善かを常に考えている大橋さん。愛情たっぷりに育てていますが、桃太郎君を見ると、ミックス犬ブームの弊害を考えずにはいられません。

「無理な繁殖が先天的に異常のある子を増やしていると思うんです。桃太郎は毛がないだけだからまだいいけど、手足がなかったり、目が見えなかったり、内臓疾患を持って生まれてきたり…。いろいろな犬種を扱っているブリーダーのところで、管理しきれなくなって“かかって”しまった結果、生まれたミックス犬も多いと聞きます。それが多頭飼育崩壊につながることもあるようなので、ブームに乗っかった無理な繁殖は本当にやめてほしいですね」(大橋さん)

 ミックス犬を否定するわけではありませんが、ブームの裏で何が起きているのかも考えるべき時に来ているのかもしれません。

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