道にポツンと落ちていた、ガリガリにやせた子猫…家族ができて生きる気力を取り戻し、心臓の穴もふさがった?

岡部 充代 岡部 充代

「波ちゃんは道にポツンと落ちていたんです」

 昨年6月のことを思い出してそう話してくれたのは、保護猫の譲渡会を企画・運営している『もふもふ西宮』のsuniさんです。マンションの住人から子猫がいると聞き、急いで保護に向かいました。

「ガリガリにやせていて300gしかありませんでした。顔は目やにと鼻水でグチャグチャ。心雑音もあって、獣医さんには『心臓に穴が開いていて、そのために成長が遅れたり、幼くして亡くなる可能性もある』と言われました。子猫らしい無邪気さがなくて、生きる気力の感じられない子でしたね」(suniさん)

 そんな波ちゃんでしたが、ちょうど1週間前に別の場所で保護された夏君という子猫と一緒に暮らすうち、少しずつ遊びに興味を持ち始め、どんどん活発になっていきました。波ちゃんは生後約1か月、夏君は生後約3か月。月齢が近かったのもよかったのかもしれません。

 本当の兄妹のように仲が良かった夏君と波ちゃん。suniさんは2匹一緒に迎えてくれる里親さんを探すことにしました。

「夏君はトライアルまで行ったんですけど、先住猫との相性が合わずに帰ってきたんです。そうしたら、すっかりおとなしくなってしまって。一緒に保護された猫が先に譲渡されたのを分かっていたのか、まるで『ボクはダメだった…』と言わんばかりに“シュン太郎”になっていたので、そんな夏君と、夏君のことが大好きな波ちゃんを離すのはかわいそうだなと思って」(suniさん)

 2匹一緒にというのはハードルが高くなりますが、幸運なことに、譲渡会を訪れた中川さん一家が2匹にエントリーしてくれました。

 中川家は家族全員が“猫派”。17年7月まで黒猫のみかこちゃんがいましたが、16歳で亡くなり、お母さんの友紀さんには「もうちょっと早く病院に連れて行ってあげれば…」という後悔がありました。そして、そのとき一番大泣きしたのが、長男の欧介君だったと言います。「みかこのことをこんなに大切に思っていたのかとびっくりするほどでした」(友紀さん)。

 それから2年がたち、友紀さんの心に「いい出会いがあればもう一度、猫を飼いたい」という思いが芽生え始めたころ、欧介君は多感な年頃になり、家族との会話が減って、輪から外れることも多くなっていました。そこで友紀さんが考えたのは、「動物がいるほうがいいのかも」ということ。そんな思いを知っていたご主人が、たまたま『もふもふ西宮』の譲渡会の看板を目にしたことがきっかけとなり、夏君と波ちゃんと出会うことになったのです。

 

 2匹は今、しじみ君とノリちゃんと呼ばれています。しじみ君は『ねこのシジミ』という絵本の主人公に似ていたことから命名。ノリちゃんは頭の黒い部分が「おにぎりの海苔みたい」ということで名づけられました。

「2匹がじゃれ合っている姿を見ると本当に癒されます。いま振り返ると、みかこは寂しそうだったなと思うんです。主人と私は仕事、子供は学校で。だから次に迎えるときは2匹がいいなと思っていました」(友紀さん)

 昨年8月の譲渡会の朝、友紀さんは猫の夢を見ました。夢自体、めったに見ないそうですが、譲渡会に行ってびっくり!夏君が夢に現れた猫にそっくりだったからです。これはもう運命としか言いようがありません。しかも、同じケージに波ちゃんもいて、「2匹迎えたい」という希望とも合致。波ちゃんには心雑音があると聞きましたが、「みかこの介護をして一人で看取った経験があるので、もう何が起きても大丈夫かなと。命を預かることを決めた時点で覚悟はできていました」(友紀さん)。家族も2匹を気に入り、正式譲渡が決まりました。

 

 2年ぶりに猫のいる生活になり、中川家にはうれしい変化があったようです。

「欧介とは一時より会話が増えましたし、時々、猫にも話しかけているようです。その姿は新鮮ですね。末っ子の和音(おと)もよく世話をしてくれて、情緒が育っていると思います。長女の環(たまき)も含めて、誰かしらがしじみとノリのことを気にかけているので、それはとてもいいことだと思いますね」(友紀さん)

 後日検査したところ、ノリちゃんの心雑音は消えていました。成長とともに心臓の穴がふさがったようで、お医者さまからは「もう心配ない」とお墨付きをもらっています。きっと、家族の愛情が穴をふさいでくれたのでしょう。

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