東京、京都、奈良、九州の各国立博物館が今春以降の平常展の観覧料を値上げすると発表しました。発表直後からツイッター上では「大幅に上がる」といった率直な驚きや「(博物館は)原則無料のはず」「大英博物館は無料」など、有料そのものを疑問視する書き込みが相次ぎました。なぜ値上げするのか、そもそもなぜ有料なのかを、4館の一つ、京都国立博物館(京都市)に尋ねました。
東京国立博物館は620円だった平常展の一般料金を千円に、京都、奈良、九州の3館は現行の520円を700円に値上げします。東京、奈良と九州の3館は4月1日から、京都は6月23日からの実施です。また平常展の団体料金は4館ともに廃止されます。
4館の中でも、京都国立博物館(京博)は収蔵・寄託の国宝が116点を数え、平安時代から江戸時代までの京都とその周辺の文化財を多数展示する日本屈指の博物館です。1年を通して開館しているほかの3館と異なり、京博の平常展(名品ギャラリー)の開館日数は年150日程度と少ない。それでも、年間約15万人が訪れています。
京博はすでにホームページで値上げを告知しています。その告知文には「ランニングコストが経費を圧迫している」「観覧料の見直しが避けることができない」と悲痛な文言が並んでいます。値上げの原因を京博に聞いてみました。
総務課の三島貴雄さんは、値上げの主な要因に人件費や物価の上昇を挙げます。京博は、展示の運営などを民間企業に委託しており、そうしたスタッフの人件費が上昇しているそうです。追い打ちをかけるように、光熱費や設備維持などのランニングコストがかさみ、文化財の収集や保管といった博物館本来の業務が制約されつつあるといいます。
では、経費が増える中で博物館は、何も手を打たなかったのでしょうか。三島さんは「これまでにもいろいろな対策をしてきた」と説明します。博物館で必要なものは入札を徹底し、経費を圧縮するなど、節約に努めてきたそうです。
さらに、展示物への影響がない場所では空調をなるべく切ったり、事務棟では正午から1時間の昼休みは照明を落としたりしています。また、京博の魅力をアピールし、新たなファンを獲得しようと、敷地内でファッションや食のイベント開催を重ねています。
さて近年、日本を訪問する外国人観光客が増加しています。日本の美が集まる博物館にも多くの外国人が訪れているはずで、収入も増えていそうです。三島さんも「確かに外国人の入館者が多くなり、観覧料収入も増えています」と認めますが、「多言語対応の説明表示や音声ガイドを用意せねばならず、増加した観覧料収入はそうした費用へと消えていきます」と事情を明かします。
ツイッターにあった「博物館は原則、無料のはず」という意見にも、見解を尋ねました。根拠となるのは博物館の設置やその運営について定めた博物館法。この法律の23条には「公立博物館は入館料を徴収してはならない」と書かれています。
ただし、その条文には続きがあります。「博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる」。三島さんは、現状の京博について、維持運営に必要な費用をまかなえない「やむを得ない事情」にあたると強調します。
国立博物館なら国の予算に頼ればいいのではないかとも思いますが、三島さんは「国の財政は厳しく、政府予算に頼ることもできません」と明言します。さらに「確かに英国の大英博物館は無料ですし、ほかの国でも無料の博物館はあります。しかし、そうした国では寄付をする文化が根付いていることが多いです。残念ながら日本とは事情が異なります」と理解を求めます。
京博は平常展でも常に期間限定の「特集展示」を行い、何度訪れても飽きない展示を心がけているそうです。しかも、4館の平常展を何度でも見ることができる「国立博物館メンバーズパス」は当面2千円で据え置き。お得なうちに、国立博物館メンバーズパスで4館の平常展を回ってみるのも面白いかもしれません。