やっぱりすごいぞ、モトーラ世理奈!神と映画に愛される若手女優の素顔に迫る

黒川 裕生 黒川 裕生

一度見たら忘れられないオーラを放ち、モデルから俳優、歌手と活躍の場を広げる若手女優モトーラ世理奈。東日本大震災で家族を失った少女の旅を描いた映画「風の電話」(1月24日公開)に主演し、自然体で鮮烈な印象を刻んでいる。監督は、即興芝居を重視する独特の演出で知られ、国内外で高く評価される諏訪敦彦。「オーディションは最悪だった」と笑いながら振り返るモトーラと、「会う前から彼女にほぼ決めていた」と明かす諏訪監督に、撮影時のエピソードや公開を控えた思いなどを聞いた。

「台本はつらくて最後まで読めなかった」

「風の電話」は岩手県大槌町在住の佐々木格さんが自宅の庭に設置した、“亡き人ともう一度話せる電話”をモチーフにした物語。東日本大震災以降、大切な人を亡くした喪失感を癒やそうと、多くの人が訪れているという。映画は、小学生のときに家族を津波にさらわれ、現在は広島の伯母宅に身を寄せる女子高生のハルが主人公。彼女がある出来事をきっかけに広島を離れ、この風の電話にたどり着くまでの旅が、ドキュメンタリーを思わせるタッチで描かれていく。

モトーラは1998年生まれ。2015年に雑誌「装苑」でモデルデビュー後、数々のファッション雑誌を飾り、18年からはドラマや映画にも出演するようになった。

「風の電話」の主演に決まるまでの経緯については、こう振り返る。

「昔から家族が亡くなる話に弱くて、この『風の電話』も台本を最後まで読めなかったくらい。心がもたないからオーディションに行くのも嫌で、実際に行ったらやっぱりつらくて、全然思うようにできませんでした」

「ダメだと思っていたのに、また呼ばれて。次は設定だけ与えられた即興芝居で、そのときは何故かすんなりとハルの気持ちになれました。即興はすごく自分に合っていたし、演じていて気持ちがよかったです」

実は諏訪監督、オーディション前からモトーラに光るものを感じていたという。

「言葉で表現するのは難しいのですが、他の俳優とは“何か”が決定的に違う。実際にお会いしたら、『やっぱりこの人で撮りたい』という思いはさらに強くなりました。佇まいが映画的というか、ずっと見ていたくなる。そんな力を感じたのです」

映画の中では「ハル」として生きた

共演は西島秀俊や西田敏行、三浦友和ら錚々たる顔ぶれだ。まだキャリアの浅いモトーラには、相当なプレッシャーだったのではないか。

「もちろんすごく緊張しましたけど、最初の撮影現場である広島の呉に着いて、普段ハルが広子伯母さん(渡辺真起子)と住んでいる家や町の雰囲気に馴染むと、自然とハルになれた。だから、三浦友和さんも『三浦さん』というより『公平さん(役名)』という感覚。映画の中では、ハルとして生きることができたと思います」

諏訪監督も「モトーラさんは『目の前にいる人』や『今いる場所』に対して常に意識が開いているから、即興の芝居にも普通に入っていける。これは、ベテラン俳優でもできない人がいるんです。その点、モトーラさんは素晴らしかった」と話す。

東日本大震災時、モトーラは小学6年生だった。震災孤児のハルを演じたことで、意識にどんな変化があったのだろう。

「ハルと私の年齢はそんなに離れていません。あの日から2人の間に同じ年月が流れ、私は21歳になりました。子供だったあの頃とは感じ方も全然違います。ハル自身、もう高校3年生。でもハルは震災の後、時間が止まってしまっています」

「ハルも普通に大人になって、家族と仲良く暮らしていたはずなのに、そんな未来が断ち切られてしまった。でも、ハルは私と何も変わらない普通の女の子なんですよね。現実に、ハルと同じような経験をした人はたくさんいる。ハルを演じたから、そういうことに思いを馳せられるようになったと思います」

慎重に言葉を選ぶモトーラの答えを、諏訪監督は「震災がなければ、ハルは今のモトーラさんのように暮らしていたかもしれない。逆に、モトーラさんがハルのようになっていたかもしれない。それはちょっとした違いなんですよね」と引き取った。

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