実はものすごく多忙な人。2019年上半期だけでも、映画・テレビドラマ・舞台を合わせて10本を超える作品に出演。香取慎吾主演の映画『凪待ち』(6月28日公開)でも、物語の鍵を握る重要なキャラクターを自然体で好演している。画面に映る女優・西田尚美(47)の抜群の安定感を見れば、そんなひっきりなしのオファーも納得できる。
名バイプレイヤーというか、ときに優しく、ときに厳しく、作品全体を引き締める“要”のような稀有な逸材。その息の長い女優生活のスタート理由もなかなか稀有で…。なぜなら「まあいいかぁ」が始まりだったから。
何色にも染まれる熟練ぶりに、小劇場出身の叩き上げの人かと思いきや、芸事のスタートは服飾系専門学校・文化服装学院時代にバイト感覚で始めたモデル業。女優業にはまったく興味がない中で、ドラマのオーディションに受かってしまった。「そのオーディションも事務所の方にお願いされて渋々行ったような感じで。会場には知っている人もいたから『まあいいかぁ。受かるはずもないし』と。そうしたら何故か受かってしまって、やらざるを得なくなったというか(笑)。やる気のないまま入ってしまった世界なんです」。申し訳なさそうに打ち明ける。
20代に突入したばかり。当然、演技経験もゼロ。「セリフは棒読み、超ド下手のダイコンでした(苦笑)。現場での立ち振る舞いもわからず、職人気質のスタッフさんからは『そこじゃねえだろ!』とか散々に言われたりして、現場で飛び交う業界用語も何もわからずでした。当時は嫌でしかなくて縮こまっていました」と駆け出し時代を思い出し笑い。そもそも女優業は「片足を突っ込んでしまった」一度きりの人生経験のはず。ところがあまりの否定ぶりに、若き西田は「どうして!?」と逆に奮起してしまった。
「今思えば、まともに演技も出来なかった私が悪いし、『わからないから教えてください』と素直に言えば良かった。でも若さゆえの強がりから、わからないことをわからないと言うのがカッコ悪いという意識があったんです。『どうしてそんなに言われなければいけないの?』…と思っちゃたんです」。若気の至りというマイナスな感情がモチベーションだった。
西田いわく、駆け出し当時は「協調性もなくて集団行動も苦手な性格」だったという。映画作りなどは全員が完成という一つのゴールに向かって走っていくもの。西田は嫌々その苦手な集団行動に身をゆだねたわけだが、作品が完成していく過程を体感していくうちに、もの作りの面白味を感じるようになる。マイナスな感情は影を潜めていった。