その場その場で生まれる空気や感情を大切に、即興芝居を積み重ねながらたどり着いた「風の電話」でのクライマックス。モトーラはここでもやはり、台詞が用意されていない白紙の状態で演技に挑んだ。
「不安ではあったけど、実際に初めて電話ボックスに入って、そこで感じることを言いたくて。そこまでの旅があって、『帰ってきたんだよ』っていう気持ちもあるから、何か言葉や思いが出てくるんじゃないかなと思って臨みました」
そんなラストは10分以上の長回しに。寡黙だったハルが全てを出し切る、忘れ難いシーンになった。
風の電話での撮影時、現地は大変な悪天候だったという。撮影を2日待ち、ようやく晴れたが、風は強く吹き続けていた。「雲がぶわーっと動くので、光もどんどん動く。それはもう劇的な感じだった。風の電話を設置した佐々木さんも『きっと神様が迎えてくれているんだ』って。奇跡的な瞬間だったと思います」と諏訪監督は振り返る。
今後さらなる飛躍が期待されるモトーラ。本作には、旅を通じて変わっていったハルと重なるように、女優として大きく成長していく過程が記録されている。彼女のキャリアを飾る記念碑的な作品として、これから長く語り継がれることになるかもしれない。
■「風の電話」公式サイト http://www.kazenodenwa.com/