水没フィルム救済へ、創業105年の福島・本宮映画劇場がSNSでSOS発信~Tシャツ販売も

北村 泰介 北村 泰介

 2019年も残りわずかだが、10月の台風19号による水害は今なお被災地に深い爪痕を残している。福島県内で最多の7人が亡くなった本宮市では、105年の歴史を持つ「本宮映画劇場」と館主の作業場が床上浸水し、保管していた約400缶のフィルムのうち約200缶が水没して致命的なダメージを負った。1914(大正3)年創業の劇場がルーツで、現存する東北最古の映画館は、SNSで被災当日から情報を発信し、「フィルム救済プロジェクト」を始動した。被災から2か月、その歩みを追った。

 10月13日未明、映画館から90歩ほど離れた旧国道沿いにある自宅兼作業場の裏を流れる阿武隈川が氾濫。堤防を越えた水が家の隙間から侵入してきた。83歳の館主・田村修司さんは「1階のベッドで寝てたんだけど、目覚めたら顔のすぐ下が水なんだもの。私は5歳だった昭和16年と33年前に水害を2回経験したけど、どちらも庭までだったから、まさか家の中まで水が入って来るなんて思わなかったよ」と証言する。

 棚上に置いていた戦前のアニメ映画など200缶は無事だったが、下の方に置いていた主に劇映画の200缶は約70センチの浸水で泥にまみれた。館内も1階前方の客席が水に浸かり、ロビーは泥まみれになった。

 「館主はなんとか無事です。水が早くひきますように」「映写機は無事!」。かねてから同館はツイッターやインスタグラムで情報発信してきたが、被災当日からSNSで状況をつぶさに伝えた。10月後半にはフィルム洗浄がテーマとなり、「濡らすと白っぽくなるのもなんだか幻想的」「フィルムは目で確かめられるのが、やはり良いところ」「とけだすフィルム、1コマでも救っていきたい」と投稿を続けた。

 11月もフィルムに染み込んだ泥と格闘。「泥まみれのコア(フィルムの巻芯)は洗うのが大変」「悪夢のような水害より1か月。『1コマでも多く残す!』が目標」「フィルムは生き物だと、接していてつくづく感じる。 館主は『映写機の働きを助けるのが人間なんだ』 と話すのですが、フィルムを助けるのも人間かもしれない」「リワインダー(フィルム巻取り機)は部品が流されてうまく巻きとれない&拭いても拭いても泥がういてきます」。ちなみに1缶分のフィルムの全長は約10分間のもので約274メートル。それが200缶だから、地道で根気のいる作業が続く。

 11月下旬に「本宮映画劇場フィルム救済プロジェクト」を発表。プロの力を借り、東京でフィルムの洗浄と乾燥を始め、その資金に同館オリジナルTシャツの売り上げを充てる。漫画家の東陽片岡さんが描いた絵柄は、自転車の荷台にフィルム缶を積んで映画館へと続く道をこぐ人の後ろ姿。「映画=フィルム」を愛する者の思いが込められている。今月25日まで、motomiyaeigeki1914@gmail.comでメール注文を受け付けている。

 修司さんは「水没した200缶のうち150缶くらいが生き残ればいいと思う。半年から1年はかかるね」。10月27日に同館で予定されていたミュージシャンのライブと上映会は来春をめどに延期し、その日を「復活の日」として再生を期す。

 三女の田村優子さんは、今回の被災で実感したことを2つ挙げた。1つは「観たい作品のリストアップ」。災害によってフィルムの命にも限りがあることを再認識した。だから、生きている間に作品を少しでも多く観てもらいたい。優子さんは「近い将来、東京で会場をお借りして、その中から上映したい」。そして、遠路はるばるボランティアとして駆け付け、館内の清掃などを手伝ってくれた大勢の人がいる。「被災して一番感じたことは、みなさんの優しさです」

 12月以降も発信は続く。最新作「カツベン!」公開前日の12日には、ロケ地の福島県で上映会を行った周防正行監督が来館して館主を激励。その模様もSNSに投稿した。「本宮映画劇場@motomiyaeigeki」は地域密着メディアになっている。

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