廃棄する麻袋が唯一無二のバッグに変身 仕掛け人の女性代表は人生いろいろだった…

國松 珠実 國松 珠実

「私、欽ちゃん劇団に所属していたことがあるんです」と話すのは、『KISSACO(キッサコ)』のデザイナーで代表の岡本由梨さん。日本各地のカフェや焙煎工場などで役目を終えた珈琲豆を入れる麻袋を、機能的でオシャレなバッグにして販売する。彼女の37年の人生は実に多彩だ。

東京出身の彼女は、高校の頃に渋谷のクラブで音楽活動をしていた。ボーカル担当でCDデビュー寸前までいったが「どんどん進む話に気持ちが追いつかなかった。それにまだ10代。簡単にうまくいったら、ろくな人生にならないと怖くなった」と辞めた。

その後、お笑い好きだった彼女は「欽ちゃん劇団」の研究生になったが、向いていないことに気付き、1年ほどで辞めた。

ある日、自宅でテレビを見ていてビビッときたのが温泉宿の仲居さん。ドラマのようにお客相手に刺激的な毎日がおくれたらと派遣会社に電話し、1週間後には新潟の山奥の秘湯で、また長野の渋温泉で働いた。仲間は個性的だった。エジプトでホテル開業の資金作りに勤しむ女性やバリ島に家を建てるという女性もいた。契約終了後、自身もバックパッカーとなりガイドブック片手にベトナムで初めての海外を体験した。その後アルバイトで採用された大手出版社で編集アシスタントに。多くの応募者の中、合格者は1人だけだった。「あとで聞いたら、将来正社員にする約束ができないので、もし辞めることになったとしても一人で生きていけそうな私を採用したんですって」と笑う。

25歳の時、将来のために漢方やマクロビオティックを学ぼうと、専門学校へ入学金を支払う前夜に『不思議なお告げ』があった。「夢で、誰かに“バッグが良いよ”って言われたんです」。直観を信じ昼は出版社、夜は専門学校でバッグ製作を学ぶ。1年後、中退して出版社も辞め、バッグメーカーに就職した。「習うより慣れろ。働きながら技術を身に付けた方が早い」とバッグ製作から企画、出荷作業までこなした。国内の一流メーカーに卸していたというそこでの厳しい仕事が、のちに役立つ。結婚、出産で退職した彼女が、子どもが生後半年になったのを機に「小遣い稼ぎ」のつもりで製作したのが、珈琲の麻袋を利用したバッグだった。「廃棄予定の麻袋がとても綺麗だからと、父が珈琲の焙煎所から持ち帰ったのがきっかけです」。

2009年に立ち上げた「KISSACO」も10周年を迎えた。少人数で製作するがゆえの希少さと、唯一無二の個性的な絵柄が人気だ。世界各国の生産農園にバッグを届ける<サトガエリ>という取り組みも行う。楽しい反面、特にここ数年は仕事も私生活も大変だったという。「人が生きる上で本当に大切な価値とは何かを、つくづく考えさせられました」。

この世に無駄なものはないという岡本さんは、海外でも活躍するアーティストとコラボレーションしたバッグも製作。やむなく捨てていた麻袋にカラフルなペイントを施したバッグだ。「無価値だったものが価値あるものへ生まれ変わる。そういう提案や発想を、ポジティブに楽しんで欲しい」と語る。ビビッときたら行動という岡本さんから目が離せない。

KISSACO https://www.kissaco.net

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