2018年11月のある日、保護猫の去勢・避妊手術のため、動物病院へ向かった。この病院は野良猫の避妊・去勢手術をメインで行っており、近畿圏からたくさんのボランティアさんが猫を連れてやってくる。病院に着くと受付には沢山の猫がいた。その中に茶白のかわいらしい猫がいる。近づいてよく見ると、片方の目を怪我していた。目は白濁して結膜が癒着しており、ほとんど開いていない状態だ。
この子のキャリーバッグには「TNR」と書いた紙が貼られていた。TNRとは野良猫の避妊去勢手術を施す取り組みのことだ。この病院では、受付で猫が入っているキャリーバッグに「保護」する猫か「TNR」する猫かが分かる様に紙に書いて貼っている。TNRということは、さくら猫(耳にV字カット)になって外に離されるのだ。
片方の目にハンデがある状態でTNRは厳しいだろうと思いながら見ていると、ニャーと可愛い声で鳴きながらキャリー越しにすり寄って来る。とても人懐っこい。気になって病院の方にどこから来たのか聞いてみると、兵庫・淡路島のボランティアさんが連れてこられたとのこと。受付にいたたくさんの猫達は、手術のため淡路島から来ていた。
この時、私たちが活動しているNPO法人「動物愛護・福祉協会60家(ロワや)」のシェルター(保護施設)は1匹だけなら猫を迎え入れられる状態だった。せめてこの子だけでもと思い、病院の方にお願いしてボランティアさんに連絡を取っていただくと返信があった。親切な方で色々と話をさせていただき、この子を譲渡してもらえることになった。淡路島はのどかなイメージがあるが、野良猫がたくさんいてボランティアさんも困っているらしい。
この子は多頭飼育崩壊で保護された猫だった。保護主さんは、一度譲渡会に出し、そこで決まらなかったらTNRしようと考えていたそうだ。この子を引き取るときは、必ずこの子を幸せにすると約束をした。名前は淡路島の宝物という思いから「宝」にした。
健康状態は良好。目は治らなかったが、とても人懐っこくて甘えたの愛嬌がある子だ。他の保護猫達ともすぐに仲良くなった。早々に宝を家族に迎え入れたいと声がかかり、トライアル(正式譲渡前のお試し期間)が始まった。トライアル先でも甘えたは全開だ。寝る時はいつも首元で寝ている。
しかし問題があった。宝は人が大好きでずっと一緒にいたいが、家族の帰宅の遅い日が続いたのだ。宝はとても寂しがりずっと鳴き続けていた。これを見た家族は、宝にとってこれで幸せなのか気になりはじめた。
そんなある日、トライアル先へよく来る夫婦がこの日もやってきた。夫婦は宝の愛嬌あるかわいさに虜となった。夫婦に宝の問題を相談すると、奥さんはずっと家にいるし、自分達でこんなかわいい子の面倒を見させてくれるのであれば、ぜひお願いをしたいと申し入れがあったという。
すぐに私たちに相談があり、トライアル先で面談をすることにした。夫婦はとても優しい方で、再トライアルが決まった。宝は、すぐに環境に打ち解け無事正式譲渡となった。
新しい名前はチビ。旦那さんが昔にかわいがって飼っていた猫の名前だ。チビは奥さんがずっと一緒にいてくれる環境で、奥さんにとてもかわいがられている。奥さんはチビを育てながら母性本能が沸き、そのおかげか、ご自身にも子供を授かったという。
旦那さんから「チビは僕たちのキューピッドになって凄く感謝している」と嬉しい報告をいただいた。チビは今も優しい家族と一緒に幸せに暮らしている。