個人で保護活動されている方から「いま自宅で保護中の猫をそちらで保護して欲しい」と相談をいただいた。2019年2月上旬のことだ。1年前の夏ごろにTNRの予定で1匹のキジトラを捕獲したが、とても人懐っこく地域に戻せなくなったという。
TNR(Trap Neuter Return)とは、地域の猫が繁殖し不幸な命を増やさないため、捕獲して不妊治療を施し、元の場所へ戻すこと。人間の都合で生殖器を取ってしまう。これに対して考え方も様々だが、環境省の統計資料によると年間4万3216頭もの犬猫が殺処分されている、とのこと。猫にも人にもメリットがあり、「人と猫が共生する優しい社会」を実現するため各地方自治体も推奨している。
さて、キジトラの名前はトラ。推定2歳程の成猫だ。相談者はトラの初期医療を済ませ、自宅に招きトラを保護猫にした。その当時、すでに自宅には保護猫が4匹と保護犬1匹がいた。トラは人懐っこく可愛い子だが、難点があった。
家の中で他の保護猫と保護犬を追っかけ回すのだ。トラは遊びのつもりだが、周りの子達はかなり迷惑にしている。保護犬は見たことがないほど威嚇し、保護猫とはケンカが始まる。徐々に周りの子達がストレスをかかえるようになった。
こんな状況を避けようと、トラが遊ぶ時は全員ケージに避難させた。他の子達が遊ぶ時はトラがケージに入り、他の子達が遊ぶ。だが、この状態ではトラにもストレスがかるため、里親に出す決意をした。
近くの譲渡会に参加したが里親は現れない。周りにも里親になってくれる人を探したが難しい。過去に子猫を20匹ほど譲渡してきたが、成猫ということもあったのか今回はなかなか里親が見つからなかった。
自力で里親を探すのは難しいと判断した相談者は、近所にあったネコカフェとドッグカフェが一緒になった店にトラを譲渡して里親を探してもらうことにした。しかし、しばらく経って様子を見に行くと、明らかにトラの調子が悪くなっていた。店と話をしてトラを譲渡してもらうことになり、自宅へ連れて帰った。
もう一度頑張ろうと自宅での生活が始まったのだが、また保護猫や保護犬がストレスを抱えるようになった。困り果てた結果、私たち夫婦が代表を務めている動物愛護・福祉協会「60家」のシェルターにやってきた。
トラは人懐っこいイケメン猫だ。シェルターの猫達に慣れてもらうため、日中は猫達を開放している部屋に入ってもらった。この部屋は猫と人に慣れている子が大半で、トラの遊び相手になってくれる子がいると思った。