「しまった!寝過ごした」そんな乗客に「救済バス」が運行 提供する西東京バスに聞いた

川上 隆宏 川上 隆宏

年の瀬も近くなり、忘年会シーズンがやってきました。お酒を飲みすぎて心配なのが「電車の寝過ごし」ですよね。うとうとしていて気がついたら電車は自宅から遠く離れた田舎の駅。戻ろうにも折り返しの電車は終わっていて、夜明けまで過ごせるようなホテルもお店も近くにない…そんな経験のあるみなさん、JR中央線沿線に住んでおられたら朗報です。「寝過ごし救済バス」がこの年末も運行されますよ!

「寝過ごし救済バス」が走るのは、JR中央線の高尾駅から八王子駅まで。12月6日から金曜日の深夜限定で3日間運行されます。高尾駅は中央線・中央特快最終電車の終着駅。うっかり寝過ごしてしまった人向けに、八王子駅付近まで戻れる「救済手段」を提供してくれるといいます。

バスを運行するのは八王子市に本社を置く西東京バスです。担当者に聞きました。

―なんて親切なバスなんでしょう。

「このバスは運転士の発案により2014年から運行を開始しました。今年で6年目になります」

「電車で寝過ごして高尾駅にたどり着いても、駅周辺には宿泊施設や、翌朝まで過ごすことができるような店舗はありません。そこで、そういった施設や店舗の多い八王子駅付近まで戻れるようなバスがあれば需要があるのではないかと考えました」

―自宅に戻れなくても、時間をつぶせる場所まで手軽にたどり着けるのはうれしいですよね。どれくらいの人が利用しているのでしょう。

「2018年は3日間の運行で、計35人の方が利用されました。1便あたり最大15人です」

―ええっ、それって多いのでしょうか、少ないのでしょうか…。

「どうしても人数は年によって変動します。以前はもっと利用者数の多い年もありましたし、運行開始直後は木曜・金曜の週2回運行していました。最近は働き方改革などで飲み会が減っているとも聞きますが、こちらのバスは好評をいただいております」

  ◇  ◇

SNS上でもこの「救済バス」には、「助かる」「有り難い試み」「粋なことしますね、西東京バスさん」といった感想が多数つぶやかれています。「志木から池袋行くのもお願いします」といったように、自分の利用している路線にも同じようなサービスがほしいという投稿も。

特色ある試みについて、バス業界や公共交通のあり方について詳しい「高速バスマーケティング研究所」代表の成定竜一さんに聞きました。

―深夜走るバスといえば、終電後に都市部から郊外に向かうイメージがありますが、このバスのように郊外から都市部に向かうバスは珍しい印象があります。

「西東京バスの『救済バス』的な、寝過ごし客を狙った『逆方向』路線は、ほかに事例はないと思います」

「JR中央線は同駅を過ぎると山間部に入るため、ほとんどの電車が高尾止まりです。東京の西部は、三鷹・立川などの都市があり沿線人口も多いので、寝過ごし客が高尾に「集中発生」するという特徴が生んだサービスかと思います。実際、毎年末、寝過ごした人たちによって相当なタクシー待ちの列ができるようです」

―バス会社がこのようなサービスを行う意義というのはありますか。

「かつての路線バスは、運輸省(当時)から地域独占的に事業免許をもらって事業を行ってきました。そのため、どうしても消費者志向に欠け、きめ細かいサービスをしない傾向がありました。しかし、最近のバスのサービスは、経路検索サービスやバスロケーションシステム、ICカード(PASMO、PiTaPaなど)の採用…といったIT活用により、都市部を中心に相当使いやすくなってきています」

「一方で、バス会社側はそういった使いやすさをうまく『可視化』できていないため、一般の消費者はバスのことを『食わず嫌いの状態』にあり、それが都市部の路線バスの課題となっています。鉄道よりも小回りがきくというバスの特徴に立ち戻り、このように季節や地域の特性に合わせて柔軟にサービスを開発していくことはとても重要なことだと思います」

  ◇  ◇

「寝過ごし救済バス」は12月6日、13日、20日の各金曜日深夜に運行。東京駅0時0分発、新宿駅0時14分発のJR中央線・中央特快最終電車に接続しています。電車の高尾駅到着は0時55分。その後バスは、高尾駅北口を1時5分に出発し、JR八王子駅北口に1時32分に到着。高尾~八王子間の運賃は920円(深夜バスのため倍額)です。

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