私たちが普段、胃が痛いときなど診てもらっている病院は、生きている人を治療するのが通常ですが、病院で亡くなった方の(処置)ケアすることも病院の役割です。
具体的には「エンゼルケア」といいます。エンゼルケアの最中、遺族は病室から出されることが多いので、どんなことがなされているか、知らない人がほとんどだと思いますが、例えば、以下のようなことが行われています。
・火葬まで体液が出ないように腔部(口、鼻、耳、肛門、膣)に綿花や高分子吸収剤を詰めてふさぐ
・医療器具を外す
・アルコール綿で清拭をする
・衣服を新しいものに着せ替える
作業は約15分~20分。看護師さんが行っていますが、エンゼルケアは診療報酬点数がつかないので、病院側がサービスとして行っています。
このエンゼルケアが丁寧だったかどうか、湯灌師には分かるのです。なぜなら、湯灌の前にも、故人の口や鼻などの体液が出る部分に綿花を詰め、出ないように止める作業をするからです。この時、病院でのエンゼルケアが丁寧でないと、綿花を少ししか使用していないことによって体液がにじみ出ています。
一方、丁寧にケアされている場合は、体液のもれはなく、体臭も少なくてご遺体がきれいです。
さまざまな病院のエンゼルケアを受けた故人をみてきて感じたとこは、エンゼルケアの向こうに、病院側の本心が見えるということ。
亡くなった人に処置をどのようにしても、遺族にはわかりませんが、わからないところを丁寧にやるかやらないかで、人が亡くなった瞬間も人を大切に思うことができたかという姿勢が垣間見えます。
自分の家族が病院で亡くなったとき、心を込めた処置をしてくださったら、家族を亡くした悲しみが少し和らぐのではないでしょうか。故人が愛情をもらいながら亡くなることができたのだと、納得することができると思います。
ちなみに湯灌師は、エンゼルケアの施された故人に「お見送りするためのケア」を行います。印象の良いお顔になるよう、こけた頬を膨らませたり、半眼だった目を閉じたり。これらには、悲しみにくれる遺族にそっと寄り添う「グリーフケア」の意味合いもあります。最後の顔を整えることは、故人のためにも遺族のためにも、大切なものだと思います。