排水溝から救出した子猫、先天性の病気が発覚 「私たちが守る」と家族で一丸

佐藤 利幸 佐藤 利幸

排水溝から救出された子猫は一目散に現在の飼い主の元へ走ってきた。これが運命の出会いだった。抱き上げた子猫は、その小さなアーモンドアイでじっと見つめた。その後まもなく、「小脳低形成」という先天性の病気が分かり、歩けなくなった。獣医師から年は越せないかも、と宣告を受けた。それでも「飼う」と決めた母と3人の娘たちは懸命に子猫を育てている。

子猫ハルとの出会いは今年5月だった。埼玉県で長女(22)、二女(20)、三女(17)の娘3人と暮らす母・うしなおさんは、勤務している会社近くの用水路で発見した。しかし、近寄った直後に排水溝へ転落。すぐに会社同僚の男性社員に助けを求めた。男性社員は泥だらけになりながら救出した。助けてもらった子猫は逃げようとしたが、逃げた先がうしなおさんのところだった。そっと抱き上げると、つぶらな瞳でうしなおさんを見つめた。まるでこの人が飼い主になることを知っていたかのように…。

当初は会社の同僚が、子猫を飼うことになっていた。すでに先住猫がいたため、その日はいったんうしなおさんが連れて帰って預かることに。すると三女が「ウチで飼いたい」と言い始め、すぐに名前までつけてしまった。2年前に他界したうしなおさんの父、ノブハルから「ハル」と名付けた。家族会議の結果、長女、次女も同意、ハルを飼うことになった。推定生後1カ月、メスの子猫は晴れてうしなお家の“四女”となった。ハルだけに「我が家に春がきた」と家族全員が子猫との生活を謳歌しようとした。ただそのとき、先天性の病気だったとはまだ知る由もなかった。

獣医に診てもらったところ、野良猫のウィルス感染によって生まれてしまう病気「小脳低形成」とわかった。さらに「その病気だけならなんとか事故にさえ気をつけていれば長生きするかもしれないのですが、てんかんの気があるようだと、もしかしたら寝たきりでいずれご飯も食べられなくなっていく可能性もあるようです。来年はもしかしたらないかもしれないと言われ、正直、呆然としました」(うしなおさん)と辛い宣告を受けた。

来たとき歩行できていたハルはやがて普通に歩けなくなり、這いずって転がりながら移動している。食事は朝と夕、体を支えて食べさせている。長女が率先してハルの世話をして、治療代も出してくれるという。排便で体が汚れたハルを長女と二女がシャンプーしてきれいに洗っている。ケージは、鉄製や木製の場合、転倒すると危険なことからメッシュ製のものを用意した。猫好きな友人がたまに自宅を訪れ、爪を切ってくれている。

うしなおさんは言う。「障害を持つ子は天使と聞いたことがありますが、本当に天使のような顔立ちです。我が家は母子家庭で介護は大変ですが、娘たちはみな妹のようにかわいがっています。ハルは毎日一生懸命怒ったり泣いたり元気に遊びます。だから、悲しんではいられない。私たちもこの子を絶対に守る!って決意しました」。懸命に介護を続ける一家によって、この小さな命は守られている。

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