DVで逃げた母子に「緊急事態に当たらない」 保育園、予防接種…役所で感じた「無理解」

広畑 千春 広畑 千春

 取材をするとこの自治体では、「緊急枠」は、家族が入院した場合や月半ばでの復職などを想定しており、DVは「待機児童も多く、本当にDVだという証明が必要」(担当課)として、基本的に子ども家庭センター(児童相談所)を通した案件のみを対象にしています。

 ただ、アキさんにそうした説明や案内は一切なく、一般と同じように一時保育か月1回の通常申し込みをするよう言われただけ。その園の通常枠は満員で、一時保育も空きのある園を訪れて見学申し込みをし、利用日を決めるシステム。アキさんは「心労からか肺炎にもなり、精神的にも体力的にも限界だった。役所の方の言葉に心が折れてしまった」。やむなくその後も子どもを連れて警察や裁判所を回りましたが「どれだけ不安にさせたか…」と悔やみます。

 その間も、夫は実家や友人宅を探し回っており、アキさんは約4カ月後に自宅から遠く離れた市に転居。その役所で息子の予防接種について尋ねたところ、「住民票を移していませんね。元の自治体に戻って受けるか、自費で払って還付手続きを受けてください」と言われたと言います。アキさんは今でも外出先で夫に出くわさないか不安で落ち着かず、突然の動悸や頭痛などPTSDの症状が続いています。そんな状況を説明しても、職員は「それが決まりですから」と答えるだけでした。

 その後、支援団体が自治体に掛け合い、予防接種はできることになりましたが、再訪した窓口では別の職員から「ちゃんとDVで逃げていることを職員に説明しましたか?」「本当にそんな対応を?」と疑われたそうです。アキさんは「子どもを守るため必死で逃げたのに、まるでこちらが悪いことをしたかのよう」と唇をかみます。

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 厚生労働省によると、DVや虐待の恐れがある場合は優先的に保育園に入れるという指針はありますが、実際の運用は自治体に任されています。予防接種も、法律では「居住地」で受けることになっており、「必ずしも『住民票』がある必要はなく、居住している実態を自治体側が把握できれば足りる」といい、里帰り出産中の接種もその一例です。DVで逃げていて通常の手続きができていない場合でも「居住地で接種できるよう、十分な配慮をしていただきたい」とします。

 ですが、DV被害者を支援している別の民間団体によると、「DV案件は『秘匿』とされているため職員間でも一部の担当者が把握しているだけ。さらに職員は2、3年おきに異動があり、被害者の心情の理解や『マニュアル』にない事例への対応は、必ずしも認識されていない」と指摘します。この団体ではスタッフが必ず役所の窓口に付き添って事情を説明していますが、被害者が一人だけで対処しようとすると、こうした「無理解」に直面するケースも少なくないそうです。

 DVが背景に潜む悲しい事件も相次いでいますが、まだまだ「家庭内の問題」と見過ごされている現状があります。被害者を社会全体で守ることは、当事者も、ひいてはその子どもの将来を守ることになるのではないでしょうか。

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