まるで食べる現代アート!? 百薬の長を目指す、餅屋のお菓子

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 「お菓子で百薬の長を目指す」。長年その志を携え、無農薬・無添加のお菓子づくりに挑む「餅匠しづく」(大阪市西区)。コンクリートを基調とした空間に色とりどりの和菓子が並び、壁に目をやれば現代美術の作品がぽつり。モダンなたたずまいは、一般的な和菓子店とは一線を画す。

 本店があるのは大阪府岸和田市で、店主の石田嘉宏さんは祖父の代から続く餅屋の3代目。ただ、現在のお菓子やお店のスタイルは嘉宏さんが確立したものだ。「うちは代々継がなければいけない、というたいした餅屋ではなくて。食べる糧としてこの仕事を始めました。そのうちに、自分自身の体調が悪くなったことで、体に良いものはどういうものかを勉強しだして。お菓子屋だから、その学びをお菓子に生かしてみようと考えたんですね。それが約20年前」。

 「当時は素材へのこだわりなど一切伝えずにまんじゅうを作って売っていた。すると、『ここのお菓子を食べると癒やされる』『なんか元気になる』と言ってくださる方が出てきて。もともとお菓子を作ることはそんなに好きではないんです(苦笑)。でもお客さまの反応にテンションがすごく上がって、(素材探しに)拍車がかかりました」。

 現在では、自然農法で栽培された餅粉や米粉など仕入れる素材はもちろん、お菓子に使う水にもこだわる。「僕が思ういい水は、分子が細かくミネラルが多いもの」と、店内に自家装置を備えて作る浄化水を使っている。そもそも「いい水=天然の湧き水」という発想が大嫌い」。石田さんは固定概念を問う人であり、その姿勢こそ「餅匠しづく」の真骨頂といえるかもしれない。というのも石田さんの理想は、百薬の長としてのお菓子であり、新しい概念を作るお菓子。「お菓子作りの発想は現代美術からとることが多い」という。

 「ある人にすすめられて、たまたま買った写真集が、杉本博司の『SEASCAPES』。世界各地の水平線を同じ構図で撮影した「海景」の作品集ですが、彼は地球上で最初に生まれた人類が見た風景で、現代の私たちも見られるのは何か? と考えた結果、それは水平線だろうと。人間は恐ろしくて何を考えているかわからないから、いつかは水平線さえ見られなくなるかもしれない。でも写真は瞬間や時間をとどめておくことができるから、杉本博司はカメラを使って作品とした。その表現が僕には衝撃だったんです」。

 私たちが美しいと思い漠然と眺める水平線に対して、新しい概念を投入してみせた杉本博司の「海景」。「現代美術のおもしろいところは、作家や作品が提示する概念を知ってしまうと、もう元に戻れない。観る人の価値観や人生すら変えてしまうこと」と石田さん。

 その魔力を知った石田さんは、現代美術のように新たな概念を落とし込んだお菓子が作れないかと考えた。「餅匠しづく」で人気の真っ赤なフランボワーズ大福はその好例。お菓子で百薬の長を目指すお店に、なぜこの毒々しい色の大福があるのか? 「これは野菜のビーツによる着色で、天然のものなので食べても水に溶けて体に残らない。でも人工着色料なら水に溶けることなく体に残る。体を毒する可能性もある。つまり、それを知らせる真っ赤っかなんです。着色料がどういうものであるかを知れば、きっと食べられなくなる」。

 「餅匠しづく」のお菓子は、一見、ふつうの丸い大福であることが多い。石田さんは「きれいなお菓子を作る技術が僕にはないから」と謙遜する一方で、「見た目が良いものよりも、ミニマルな形のなかに情報がたくさん詰まったお菓子を作りたい」という明確な意図がある。おいしいなぁとほお張りながら、「これは…」と思わず考えずにはいられない。思考を誘うお菓子であり、食べる現代美術ともいえるのだ。

(Lmaga.jpニュース・村田恵里佳)

出典:雑誌「SAVVY(サヴィ)」2019年9月号より 写真/エレファント・タカ

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