大阪の名パティスリーの父から息子へ引き継がれるDNA。新しい店のカタチとは?

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 創業1987年、チョコレートに定評がある、大阪・上本町の名パティスリー「なかたに亭」(大阪市天王寺区)が、新展開としてカフェをオープンした。同店が得意とするチョコレートと、長年培った技術を生かしたスイーツ、そしてコーヒーを軸とした店「ヤード」(大阪市天王寺区)だ。

 誕生のきっかけは、なかたに亭の店主・中谷哲哉さんの息子である奨太さんが、父の店をリスペクトする気持ちから、これからの「なかたに亭」を一緒に作りたいと申し出たことだった。奨太さんは長らく東京で会社勤めをしていて、パティシエの経験はない。「お菓子は『なかたに亭』として確立されたものがあるので、そのお菓子がより引き立つものを勉強しようと思って選んだのがコーヒーでした」。修業先は東京・神保町の『グリッチコーヒー&ロースターズ』(東京都千代田区)。「ヤード」のコーヒーも修業店から毎週届くスペシャルティ・コーヒーの豆で淹れる。

 カフェ「ヤード」では、素材を重視し吟味する。チョコレートはビーン・トゥ・バー(原料のカカオ豆を仕入れ、店内で焙煎しチョコレートに仕上げるやり方)で作る。コーヒーも「生産者の顔が見える」単一農園から選び、ブレンドではない。こだわりのチョコレートやコーヒーを使ったスイーツは、本店とは一線を画した「ヤード」オリジナル。新しいスタイルのなかに名店の気概があふれる、「なかたに亭」ファンにもうれしい展開だ。

 「新しい方向性を模索していたときに、息子からなかたに亭を一緒にやりたい」とう話があって、自分がやってきたことを否定されなかったうれしさがありました」。哲哉さんは、息子の奨太さんの申し出を幸せな気持ちで受け入れた。

 2人でやるならどんなふうにするか? ヒントを得るべく、ともに訪れたのはサンフランシスコ。ビーン・トゥ・バーで人気のファクトリー「ダンデライオン・チョコレート」や、フレッシュなコーヒーが飲めると話題になっていた「ブルーボトルコーヒー」などを視察した。

 「どこも自由な空気感があって、お客さんは自転車に乗ってラフな感じでやってくる。だけど店の姿勢は真剣」(哲哉さん)。さらにそのスタイルが街の人に愛される様子に直接触れ、導き出したテーマは「クラフト(手作り)」だった。

 「『なかたに亭』で評価されているチョコレートをクラフトに立ち返らせて、ビーン・トゥ・バーのお菓子を作る。それなら、自分たちにしかできないものができるんじゃないかと思って」と、奨太さん。

 哲哉さんは、「『ヤード』ではこれまで想像していなかったものが生まれてくると思います。メインパティシエは今までなかたに亭で一緒にお菓子を作ってきたスタッフ。僕が今までやってきた技術とか経験、そして彼女たちの感性が合わさってできるのがこの店のお菓子かなって」と話す。

パティシエ2世にはならず、コーヒーを学んだ奨太さんの存在も「すごく刺激的」と言う哲哉さん。「ヤード」ではスペシャルティコーヒーを取り入れたお菓子も続々と生まれている。「なかたに亭」は、32年にわたるフランス菓子専門店。本店のスタイルは貫きつつ、柔軟に新たな一手を繰り出すことは決してたやすいことではない。

 「最初、『ヤード』は『なかたに亭』が進化したものと思っていたけど、店を始めてみたら別モノ。正直、(ひとつのことを)30年もやっていたら行き詰まることもある。新しいことをやりたいと思って『ヤード』を始めたら、これまでに気づかなかった『なかたに亭』の魅力も見えてきて。ふたつの店をやることで、さらに新しいものを生み出せたらいいなと思っています」と、哲哉さんは期待する。

(Lmaga.jpニュース・村田恵里佳)

出典:雑誌「SAVVY(サヴィ)」2019年9月号より 写真/エレファント・タカ

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