涼を呼ぶ「つりしのぶ」、江戸風情を現代に…和風の観葉植物として人気

大西 昭彦 大西 昭彦

 猛暑がつづくなか、神戸市中央区の東遊園地で「つりしのぶ」が涼を誘っている。日中は頭上からミストが浴びせられ、ときおりチリンチリンと風鈴の音が響く。

 神戸市公園部によれば、「50個ほどのつりしのぶを飾っています。今年がはじめての取り組み。暑さがひく9月中旬ごろまで、続ける予定です」という。

 つりしのぶは「しのぶ玉」とも呼ばれ、竹やシュロの皮を芯にして、シダをはわせて玉状にしたもの。これをヒモで吊るせるようにしている。そのため「釣り忍」あるいは「吊りしのぶ」」とも書かれる。

 しのぶというのは乾燥に強いシダ類を「忍」に掛けてそう呼んだものだが、植物としての正式な名称でもある。シダ植物門シノブ科シノブ属シノブという植物で、土ではなく樹上などに着生する。これをつりしのぶにという形にしたのは江戸時代半ばごろからとされ、植木屋や庭師が趣向を凝らしたしのぶ玉をつくり、出入りのお屋敷などに配ったという。俳句では、夏の季語にもなっている。

 「薄べりにつどふ荵(しのぶ)のしづくかな」

 これは小林一茶の句。畳のように縁をつけたゴザを薄べりといい、そこにつりしのぶからポタリポタリと水が滴り落ちてくる様子を詠んだものだ。軒につるした緑のしたで、涼をとっていた江戸の人々の姿がしのばれる。

 近年はこの伝統工芸植物が、和風の観葉植物として人気を呼んでいる。インテリアとして軒先や天井に吊るすほか、テーブルや床の間に飾ったりもする。かたちも丸いものから井形、屋形船、灯籠、亀などさまざまで、なかには金魚鉢と一体化したものまである。

 シノブは頑健で乾燥にも強いとあって、育てやすく枯れにくい。そのためうまく面倒を見れば10年、20年と長きにわたって楽しむことができる。

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