私は兵庫県の北西部にあるJR山陰本線・浜坂駅の駅弁販売業者である米田茶店に寄るたびに幕の内弁当風の「余部鉄橋物語」を買った。掛け紙に廃止になったブルートレイン出雲が余部鉄橋を渡っている写真が入っていて、ロマンを感じて車窓の景色を楽しみながらおいしく食べたものだった。
1月6日、売り上げの減少でファンに惜しまれつつ、米田茶店の108年の駅弁販売が終了したが、前日の5日、過去に一日1000個売れたこともある限定50個の「かに寿し」を食べることが出来た。
掛け紙が鳥取駅で駅弁を販売するアベ鳥取堂の「元祖かに寿し」と、色からカニのフォルムまでよく似ていると思ったら、アベ鳥取堂と米田茶店の先代の社長同士がいとこの関係だという。
1958(昭和33)年、全国で最初にアベ鳥取堂が「かに寿し」の通年販売を始めた。時を同じくして、米田茶店の厨房でアベ鳥取堂が「かに寿し」を“出張生産”したことで米田茶店も「かに寿し」の販売を始め、日本海の味覚を使った駅弁として人気を博するようになった。
駅弁ファンとしていつまでも忘れることのないよう、最後まで米田茶店が売り続けてきた駅弁「かに寿し」を思い出にすべく、記事にしてみた。
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輪ゴム2つを外して掛け紙を取ると、赤、緑、黄の原色がまず目に飛び込む。彩りがきれいで、食べる前から食欲をかき立てられる。
但馬産のコメを使った酢飯の上に、香住産のベニズワイガニのほぐし身、カニ足棒肉。錦糸卵に椎茸、グリーンピース、刻みショウガが絶妙な分量で配置されている。4個買ったのだが、1個1個わずかに違った盛り付けとなっていて、家庭的な温かみが加わり、実にうまい。
定番だけど、からし昆布と奈良漬は箸休めに持って来いで、バランスの良い味に仕上がっている。