川崎殺傷事件 51歳容疑者の背景にある「8050問題」

夜回り先生・水谷修/少数異見

水谷 修 水谷 修
川崎の児童殺傷事件  岩崎隆一容疑者の自宅から段ボール箱などを運び出す神奈川県警の捜査員=29日、川崎市麻生区
川崎の児童殺傷事件  岩崎隆一容疑者の自宅から段ボール箱などを運び出す神奈川県警の捜査員=29日、川崎市麻生区

川崎市で児童ら19人を殺傷後に自殺した岩崎隆一容疑者(51)が「引きこもり傾向」にあったことが明らかになった。80代のおじ、おばと3人暮らしだった50代の容疑者-。教育家の水谷修氏は、今回の痛ましい事件の背景にある「8050問題」に切り込んだ。

   ◇  ◇

 川崎市で、無差別殺人事件が起きました。罪もない人たち、子どもたちが、襲われ、二つの尊い命が奪われ、多くの子どもたち、人たちが傷つけられました。犯人は、自殺しましたが、許すことのできない犯罪です。

 実は、私は、このような事件は、これから多発する可能性があると、10年以上前からずっと考えてきました。

 みなさんは、「8050問題」をご存じですか。日本では、1980年代から、不登校やひきこもりの問題が、始まりました。その当時に不登校、そして、当時ひきこもりになった人たちの生活を支え続けてきた親たちが、80代を迎え、その世話をすることができなくなり、その子どもたちが、50代を迎えています。

 そのような中で、ひきこもりとなっている我が子の将来を悲観して、心中してしまう事態や、逆に引きこもりの子どもが、親の介護や生活費の困窮の中で、親を虐待したり、ひどいケースでは殺してしまう事態、明日を悲観して自ら命を絶つ事態、ケースとしては、まれでしょうが、今回のケースのように、その恨みを社会や他人に向けてしまい、犯罪の引き金となってしまう事態が多発することを、私やひきこもりの家庭と関わってきた専門家は恐れ、ずっと警鐘を鳴らしてきました。

 学校や会社でのいじめや社会不適応、対人関係を作ることの苦手なことから、ひきこもりになってしまっている人は、一部の専門家は、日本では200万人存在すると分析しています。しかし、政府や各自治体は、その調査をきちんと行っていません。また、かつて多くの家庭では、我が子がひきこもりになってしまっても、それを恥として、家庭内の問題に納め、専門家や専門機関に助けを求めていません。

 今から十年前に、政府も重い腰を上げ、「ひきこもり対策推進事業」を始めましたが、未だ多くの困っている人たちの元まで周知されていません。政府は、速やかに国勢調査等を通じて、まずはひきこもりの方々の実数と現状を把握し、その人たちの社会復帰を助ける機関や人材をさらに増やしていくべきです。

 人にとって、もっとも厳しい状況は孤独です。人は、他の人との触れあいを通じて、精神的に成長し、そしてこころの安定や幸せを手にすることができます。ネットやゲームは、一時的な救いと満足感は与えてくれますが、その後には更なる孤独と絶望を生み出します。

 早急に社会的に孤立した人たちに対して、その問題の解決に動かなければ、今回の川崎のような極端なケースはまれでしょうが、多くの痛ましい事件が多発すると私は考えています。

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