コロナ禍の中、著名人の自殺報道も相次いだ今年下半期に入って、自殺者が増加している。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し、「密」を避ける社会背景の中で人と接する機会が激減したことなどの要因を指摘。実際に自殺未遂者と接した警察官時代の体験を踏まえて、その心理を分析した。
警察庁の統計によると、今年の全国における自殺者数は以下の通りとなる。
【2020年の全国の自殺者数(暫定10月15日集計)】
1月 1680人(1684人、前年比4人減)
2月 1450人(1615人、同165人減)
3月 1748人(1856人、同108人減)
4月 1495人(1814人、同319人減)
5月 1575人(1853人、同278人減)
6月 1561人(1640人、同79人減)
7月 1840人(1793人、同47人増)
8月 1889人(1603人、同286人増)
9月 1828人(1662人、同166人増)
上半期は前年を下回っていたが、7月から増え始め、特に8月と9月の急増ぶりが目立っている。
小川氏は「ここ10年間、日本の自殺者は減少傾向にあり、年間約3万人だった一時期から、一昨年には2万人を切るまでになった。今年も1月から減少していたが、7月から「増」に転じている」と説明。「コロナ禍で、4月頃からテレワークになったり、お店が休業になったり、学生は休校になって、人と接することが少なくなった。アルバイトで生計を立てていた人は一気に収入がゼロになった。『夏になればウイルスも弱ってコロナ禍は収まる』という期待で我慢してきたが、夏になっても一向に収まる気配はなく、ワクチン開発のめども立たない。経済的な厳しさに加えて、そんな不安感も重なり、将来を悲観した自殺者が7月から増えたのではないかと考えられる。今年は、上半期までは2万人を切るペースだったが、7月以降は2万人を見えるペースで増えている」と分析した。
さらに、小川氏は「日本において、殺人事件は年間約900件で、自殺者は年間約2万人と遥かに多い。それだけいるので、著名人などでない限り、自殺は報道されないことが多い。日本財団が実施した『自殺意識調査』によると、2018年の調査で『本気で自殺を考えたことのある人』は約25%とのことで、実に 4人に1人の多さです。自殺を少しでも考えたり、頭をよぎった方々になると、非常に多いことになる」と付け加えた。
俳優など著名人の自殺報道も影響しているのか。小川氏は「著名人の自殺報道が一般の方の自殺の引き金になっていることは否めない。それはありうると思います。過去にも著名人と同じ方法で自殺した一般の方もいた。そうしたことを配慮し、近年は著名人の自殺報道でも具体的な自殺の方法についてメディアも詳細を報じることを控えている傾向にある。それでも一部の雑誌やネット媒体で知られることもある」と解説した。
自殺者増の要因として、小川氏はコロナ禍によって「密」を避ける社会背景を挙げた。
「密は悪い…とされ、それによってコミュニケーション力が著しく落ちている。人は、人と一緒にいて話をしているだけで、色々なものを緩和している。ポジティブな人であれば自分の夢や目標を語り、逆にネガティブな人でも、上司の悪口や会社に対する愚痴などによってストレスのはけ口とし、自身の気持ちを和らげている。そのすべてがゼロになったことで、自分自身の中に閉じこもってしまい、コロナ禍という答の出ない世界にいる不安から自殺に至るケースが出てきているのではないか」
自身の経験も振り返った。小川氏は「私は警察官だった30年間の経験の中で、自殺を試みようとして思いとどまった人、未遂に終わった人たちと現場で話を聞いてきた。自殺を止めた時には、その本人から大声で『なんで死なせてくれないんだ!』と抗議されたり、泣かれたこともあったが、その後、落ち着いてから話を聞くと皆さん同じことをおっしゃった。『死ななくてよかった』と。実際に自殺する人は一歩踏み込める『勇気』があるが、遺書を書いて椅子の上に上がったものの、思いとどまった人には『止めて下さりありがとうございます。死ななくてよかったです』と言われたこともありました」という。
そうした体験を踏まえ、小川氏は「1人で悩まないことです。誰でもいいから、話を聞いてもらうこと。話をするだけで違うものです。人それぞれ、立場もあればプライドもあります。中々身近な人には話難いのものです。相談する人がいなければ、公的な機関や『いのちの電話』などで話すことも大事」と呼びかけた。
小川氏は「コロナという『病気』で亡くなる人もいるが、一方でコロナという『要因』によって自殺をする人が増加しているという現実がある。病気としての感染対策だけでなく、精神的な部分で自殺につながる要因があるという、そのことを問うことも必要ではないか」と問題提起した。
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