今年5月20日に全戸配布された東京・江戸川区の「水害ハザードマップ」がSNSで大きな反響を呼んでいる。冊子の表紙に描かれた江戸川区の位置にかぶせた「ここにいてはダメです」という言葉のインパクトゆえだ。同区の防災担当者を取材し、背景を聞いた。
西に荒川、東に江戸川、南は東京湾と三方を水に囲まれている江戸川区。多くの地域が海抜0メートルで、堤防によって守られている中、川の氾濫や高潮による大規模水害が発生すると、江戸川区を含む江東5区(墨田、江東、足立、葛飾)はほとんどの地域が浸水する。
ツイッター上では、「ここにいてはダメです」というフレーズが独り歩きし、その捉え方も分かれた。「まさか自分が住んでる区から『どっか行け』って言われるとは思わなくて笑っちゃった」「何かあっても『責任とりません』という宣言なのか」と不信感を表す反応がある一方、「助けられないからどっか行けじゃないよ。他の場所に逃げてね、そこで江戸川区民を守る準備はしてあるから、ってこと」と理解を示す投稿もあった。
では、そもそも、なぜ、「ここにいてはダメです」なのか。今回のマップは2008年に作られた冊子の改訂版だが、前回との違いは「浸水がどのくらい続くか」という「時間」に焦点を当てた点。そこがポイントだ。
江戸川区危機管理室防災危機管理課の本多吉成統括課長は「平成27年の水防法改正が改訂のきっかけ。前回なかったものは『浸水がどれくらい長く継続されるか』ということ。江戸川区は浸水時間が長く、1~2週間も続くということを示しています」と説明。つまり、マンションなどの高い階で、浸水の恐れがないからといって避難せずに留まれば、約2週間もの“籠城”を余儀なくされるのだ。
本多課長は「台風などによる水害は真夏の暑い時期に起きる可能性が高い。ライフラインが全部止まってしまう中、エアコンもトイレも冷蔵庫も使えない室内で(熱中症や衛生面から)二次的な被害を被ることになります。その点で、区外への広域避難を啓発させていただきました」と強調。水害の“範囲”だけでなく、復旧に要する“時間”に焦点を当てた結果、江戸川区は「時間がかかる」ということをアピールするために、今回のインパクトのある言葉が生まれたというわけだ。