「え~っと…」。安田さんは、なんとか言葉を絞り出した。「捕まっている囚人の中に子供がいまして…」。やっと糸口が見つかり、そこから堰(せき)を切ったように、政府側の“社会的に弱い立場”の者を使った非道ぶりを語った。子どもや障がい者をスパイとして反政府側の地域に入らせているということだ。その反発から反政府側に入っていく人が増えてきたという。
安田さん自身、2012年の空爆で、「がれきの中から子どもや女性のひどい遺体がいくつも出てくる場面をずっと見てきた」という。現地ではそうした独裁政権への反発と、一方で「反政府」を掲げる武装勢力もまた武器を持つ“権力”には変わりなく、双方に苦しめられている人たちによる民主化運動の背景になっているのではという内容だった。
そこで感じたのは、不器用な誠実さだった。事前にその質問を想定していなかったスキは見せつつ、30秒間の沈黙という“事故”に心折れることなく、シリア政府が子どもや障がい者を反政府側へのスパイにしているという情報を提示した。
安田さんが何を発言しても全否定される風潮にあるが、そこは是々非々、少なくとも、現場にいたからこそ知り得た情報に耳を貸さない手はない。イラクの軍事関連施設内での料理人としての体験を通して庶民の生活を描いた「ルポ 戦場出稼ぎ労働者」(10年、集英社新書)など注目に値する仕事を残している人だけに、複眼的な視点で今後も彼の発言を聞いてみたい。
会見後、ベテランのスチールカメラマンが同業者と話す声が聞こえた。「やっぱり、ジャーナリストは泣かないな」。イデオロギーに関係なく、読者にウケる“いい写真”を狙う職人的なスタンスから出た正直な言葉だと思うが、沈黙時の困った顔以外、ほぼ表情を変えずに淡々と語り続ける姿には、当然のことながら、報道に携わる者の矜持があった。