日中関係が台湾や半導体などの問題で冷え込む中、反スパイ法に違反したとして拘束され一審で懲役12年の実刑判決を受けた50代の日本人男性の上訴が棄却され、刑が確定したことが最近分かった。この男性は2019年に湖南省長沙市でスパイ行為をしたとして国家安全当局に拘束され、今年2月に懲役12年の判決を受けた。男性は判決に上訴したが、今月に入りそれが棄却された。しかし、これまでの経緯で男性のどのような行為が具体的に法律に触れたのかなど詳しい経緯は全く明らかになっていない。
先月半ばにも、今年3月にスパイ行為に関わったとして拘束されたアステラス製薬の50代の日本人男性が当局によって正式に逮捕されたことが分かった。この男性は中国での滞在歴が20年もあるベテラン社員だが、日本に帰国する直前に拘束された。今後は最長で7カ月かけて起訴されるかどうかが決定するため、拘束が長期化することが懸念されている。
反スパイ法が施行された2014年以降、スパイ行為に関わったとして当局に拘束された日本人はこれまでに少なくとも17人に上り、そのうち12人が起訴され、現在も5人が拘束、服役中である。一旦拘束されれば、7割の確率で刑が下される計算だ。
また、同じく先月には日本の非鉄専門商社でレアメタルに関する業務に携わる中国人社員が3月に拘束されたことも明らかとなった。これについても詳しい経緯は分かっていないが、中国政府はレアメタルなど戦略物資の外国への輸出規制を強化しており、8月からは半導体の材料となるガリウム・ゲルマニウムの輸出規制を導入したことから、これに関連して拘束された可能性が指摘されている。いずれにせよ、中国による監視の目は日本人を含む外国人だけでなく、それと関係する中国人にも及んでいると言えよう。
中国では7月から、スパイ行為の範囲を国家機密の提供に加え、国家の安全と利益に関わる資料やデータ、文書や物品の提供や窃取などを含んで拡大した改正反スパイが施行された。中国情報機関トップの陳一新・国家安全相も改正法について、(欧米など)敵対勢力の浸透、破壊、転覆、分裂活動などを徹底的に抑え込むため、外国のスパイ機関による活動を厳しく取り締まる意思を強調するなど、中国にある外国企業や外国人の間では懸念が強まっている。
そして、最近懸念が広がっているのが、こういった反スパイ法が国家の法律ではなく地方レベルの条例に落とされていることだ。改正反スパイ法が施行された同じ月、重慶市では改正反スパイ法に基づいた反スパイ条例が議会で可決され、9月からそれが施行されたのだ。スパイ法律が条例化されるケースは今回が初めてで、今後は他の都市にも同じ動きが広がっていく可能性がある。重慶市の反スパイ条例では、公安警察や外事警察だけでなく、各種の企業や団体も警察と協力し、反スパイ活動で主体的責任を負うと定められ、国家総動員レベルで監視活動を強化しようとしている。
中国国内の若者の失業率は20%に達し、経済成長率も鈍ってきており、国民の習政権への反発も根強い。中国当局としてはそういった観点からも今後さらに反スパイ行為の取り締まりを強化していくことになろう。