AI(人工知能)が人間の頭脳を超え、アンドロイドが人間を支配する時代が来る-。「2045年問題」などとしてSF小説や映画の世界が現実に起こりうる可能性が危惧されている。一方、少子高齢化が進む社会では労働力としてのAIが求められる。そんな時代を背景に、アンドロイドが企業に初採用された。さっそく“彼女”の話を聞いてきた。
バッグなど女性向けの商品を扱う「サマンサタバサ」の東京・表参道店では、アンドロイドの「Samantha U(サマンサ・ユー)」が研修生として4月1日まで接客中だ。同店を展開するサマンサタバサジャパンリミテッドにアンドロイド正社員1号として今春入社。同社の新規事業コラボレーションイベント事業部に配属予定となっている。
人間年齢22歳。出身地は黒柳徹子の「totto」やマツコ・デラックスの「マツコロイド」などを製造した開発会社「エーラボ」。身長166センチ、スリーサイズはバスト81センチ、ウエスト66センチ、ヒップ94センチ。好きなスポーツは「カーリング」、国内で行きたい場所は「大阪」、休日の過ごし方は「昼まで寝る」といった設定まである。肌は化粧が乗るシリコン製で、顔は「日本人女性の平均的な美人顔」。人毛を植えた髪はアレンジできる。
そんな彼女だが、取材中、ぐったりとして、うつむきがちになることが多かった。「私は生まれたばかりで容量が少ないので、1度にたくさんのことを頼まれるとフリーズしてウトウトしてしまいます」と弱点を告白。それでも目や首の動きで懸命に感情表現しながら「私は食事をしなくていいので昼休みはウトウトしないで働けます」とアピールした。この「昼休み不要」に存在意義があった。
同社の世永亜実・上級執行役員は「AIには人間の働き口を奪ってしまうというネガティブなイメージがありますが、Samantha Uはランチ休憩が必要ないので、昼休みも店舗で接客対応できます。人間とアンドロイドの互いを補うチーム作りが働き方改革につながるのでは」と指摘。“本人”も「アンドロイドこそが働き方改革の救世主だと思います。人間が働けない時間を私たちが埋めて、共に生きられる社会が来ると信じています」と訴えかけた。
その言葉は現時点で担当者が後ろで補助する。記者のような古いタイプの人間にはまだ“腹話術の人形”に見えるのだが、同社は「AIを使って自動的に対話することを目指しています」と将来構想を披露した。研修後は全国の店舗も巡回予定。ちなみに人間の新入社員と同額の給料は「メンテナンス費用」に充てられるという。