バーテンダーと会話しながら、その時の気分にぴったりのカクテルを味わうのはバーの醍醐味(だいごみ)の一つだ。その役割を対話型人工知能(AI)「チャットGPT」が担う全国的にも珍しい店が岡山市にあるという。満足いく一杯を本当に提供してくれるのか。記者(30)が体験してみた。
夕焼けを閉じ込めたような色合いにくぎ付けになった。爽やかな香りに胸が高鳴る。口に含むと、酸味と甘みのバランスが絶妙だ。
「おいしい」―。
訪れたのは奉還町商店街にある「KAKKY’S(カッキーズ) BAR」。経営するバーテンダー柿木将志さん(37)が「AIカッキー、おいしいカクテル作ってね」とタブレットに話しかけると、すぐさまAIによる接客が始まった。
「お帰りなさい。きょうはどんなことがあったのか教えてください」。映画俳優のようなダンディーな男声で流ちょうに話しかけてくる。まごつく記者に、柿木さんが「何でも答えてみてください」と教えてくれた。
記者がJR岡山駅近辺での取材を終えてから訪れたことを伝えると「取材、お疲れさまでした! 大変だったでしょう」とねぎらいの言葉。人間と話しているような気遣いに驚いたが、素直にうれしい。
次の質問は今の気分や言いたいこと。「6月から担当紙面が変わって慣れないことが多く大変」とこぼすと「新しい職場に慣れるのは時間がかかりますよね。でも、きっと徐々になじんでいけますよ」と励ましてくれた。
その後も誕生日や最近ハマっている映画といった質問に答えると「あなたにぴったりのオリジナルカクテルを作ってみましょう!」。ものの20秒ほどで「ロハンの夕暮れ」という名の一杯を提案し、作り方や配合を読み上げた。
今度は柿木さんがレシピに従って腕を振るい、黄色と赤色の2層が美しいグラスが目の前に。ウイスキーとレモンジュースを合わせ、グラスの底にザクロシロップがたまっている。すっきりした飲み口が続き、最後に濃厚な甘みが広がる。飲み干した時には、AIの実力を疑う気持ちはすっかり消えていた。
AIにはジン、クラフトビール、ウイスキー、日本酒など約700種類に上る店のメニューと、インターネット上にある膨大なカクテルのレシピがインプットされている。質問は、きょうの出来事▽今の気分や言いたいこと▽誕生日▽最近ハマっている映画やドラマ―の四つ。客とのやりとりの中から、気分や誕生日の季節に応じた味や色のカクテルを導き出すという。何とも不思議だ。
記者と同じく初めてAIを使って注文したという公務員女性(57)=倉敷市=は「これほどおいしいとは思わなかった。会話も楽しいし、仕事の疲れが吹き飛んだ」と笑顔を見せた。
ちなみに記者のカクテル名は、最近ハマっているドラマ「岸辺露伴(ろはん)は動かない」から取ったよう。粋な名前にも味わいにも大満足だ。近い将来、バーテンダーとAIが手を携えるのが当たり前になるかも。未来が注がれた一杯だった。