2006年、そんなお湯が自慢の同館敷地内の片隅に、ロブーは現れた。それまであった古い木造の建物を解体し、石蔵の建設をしていたころのことだ。「迷いねこで、すぐそばの露天風呂の入り口に、ちょこんと座っていることが多かったんです。当時1歳くらいでした。すごく人なつこくて、お客さんにスリスリと寄っていくこともありました。そこで保護して当館で正式に飼うことにし、看板ねこを務めてもらうことになりました」と中崎さんは振り返る。
名前は露天風呂で保護したので、「ロテンブロ」の「ロ」と「ブ」を取って「ロブー」に。そのうち誰が教えたわけでもないのに、時折、玄関入り口前に敷いてある玄関マットの真ん中に座り、宿泊者を出迎えるようになった。毛づくろいやしぐさが上品な三毛ねこで、次第に「宿に雰囲気がぴったり」と常連客の間で人気者に。顔の模様が「歌舞伎役者の隈取みたい」と呼ばれることもある。
ロブーがいるのは主に本館ロビーのあたり。客室や食堂に行くことはなく、これまで宿泊者に迷惑をかけたことはない。小腹がすくとロビーの裏にある事務所に入ってきてエサをねだる。
「ロブーは棚に飛び乗り、そこから座っているスタッフの背中をポンポンと手で叩くなどして、『おやつちょーだい』といわんばかりによく甘えてきます。スタッフはみんな、そんなロブーの訴えには勝てず、エサをあげてしまうため一時期かなり太ったことがあったんです(苦笑)。私もねこ好きなんですがロブーの健康のことを考えると、スタッフに『エサを与えすぎないように』と注意することもあります。だからなのか、ロブーは私にはあまり近寄ってこないんですよ」(中崎さん)
若いころは敷地内を闊歩していたそうだが、いまは天気のいい日は窓辺の陽だまりで、のんびりと寝て過ごすのがお気に入りだ。「歳をとるにつれ、最近は同じ場所にいることが多くなりましたね。私たちにとってロブーは長年連れ添ってきた立派なスタッフの一員。これからも長生きして、お客さまを癒してほしいですね」と中崎さんは目を細めた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)
▼「妙見石原荘」鹿児島県霧島市隼人町嘉例川4376番地 電話 0995・77・2111