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ロシアの実効支配続く北方領土 露寄りの立場変えない中国が抱く4つの戦略的計算 

和田 大樹 和田 大樹

ロシアによる北方領土の実効支配強化や千島列島の軍事拠点化は、東アジアの安全保障環境において、中国にとって一定の戦略的利益をもたらしている。

かつて中ソ対立期には、中国が日本の北方領土返還要求に理解を示した時期もあった。しかし、冷戦終結後の中露関係の改善、さらに近年の米中対立やロシアのウクライナ侵攻を背景に、中国は北方領土問題について日本の立場を積極的に支持する姿勢から距離を置き、ロシアによる現状支配を事実上問題視しない立場を強めている。その背景には、安全保障、外交、経済など複数の戦略的計算がある。

中ソ対立期、北方領土返還要求に理解を示した時期も

第一に、安全保障上の利益である。ロシアにとってオホーツク海は、戦略原子力潜水艦を運用する重要な海域であり、核抑止力を維持する上で大きな意味を持つ。北方領土を含む千島列島の軍事的強化は、オホーツク海周辺の防衛態勢を強化し、米軍や自衛隊の活動に対するロシア側の警戒・抑止能力を高める可能性がある。中国にとっては、東シナ海や台湾海峡などで米国や日本と対峙する一方、北太平洋方面でロシアが米国の戦力や外交的関心を引きつけることは、結果的に自国の戦略的負担を分散させる効果を持ち得る。

第二に、日本の防衛・外交資源を分散させる効果である。ロシアが北方領土周辺の軍事活動を強化すれば、日本は北方の防衛態勢にも継続的に資源を投入する必要が生じる。その意味で、中国にとっては、日本が東シナ海や台湾海峡への対応にのみ集中することを難しくする側面がある。また、日露関係が悪化し、平和条約交渉が停滞することは、日本がロシアとの関係改善を通じて中露関係にくさびを打ち込む余地を狭める結果にもつながる。

「氷上シルクロード」と位置付ける北極海航路

第三に、中露の外交的連携との関係である。中国は台湾問題や南シナ海問題などで絶対に妥協しない姿勢を貫き、米国陣営に強く反発している。ロシアもまた、ウクライナ問題をめぐって欧米主導の国際秩序に対抗する姿勢を強めている。両国がそれぞれの領土・主権をめぐる立場について相互に一定の理解を示すことは、欧米に対抗する外交的連携を維持する上で意味を持つ。ただし、これは中露があらゆる領土問題で完全に同一の立場を共有していることを意味するものではない。

第四に、極東・北極圏における経済的利害である。欧米の制裁を受けるロシアは、極東やシベリアの開発、エネルギー輸出などで中国との経済関係を一段と重視している。ロシアが千島列島を含む極東地域でインフラや物流網の整備を進めれば、中国にとってもエネルギー、資源、海運などの面で協力機会が拡大する。特に北極海航路は、中国が「氷上シルクロード」と位置付けて関心を示してきた分野であり、ロシアとの協力は欧州方面への輸送ルートの多角化という観点からも重要である。

このように、ロシアによる北方領土の保有・軍事的強化は、日露間の領土問題にとどまらず、中国にとっても対米戦略、日本の防衛負担、中露外交、極東・北極圏の経済協力という複数の領域に影響を及ぼす。もっとも、中国がロシアの北方領土政策を無条件に支持していると断定するのは適切ではなく、中国は自国の利益を優先しながらロシアとの戦略的協力を維持していると見るのが妥当である。

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