東京都内で夫と暮らす52歳のパート勤務の佐藤さん(仮名)。大学3年生の娘の就活をきっかけに自分のキャリアを見つめ直し、就職活動をする際に女性が長く働ける会社かどうかを見分ける方法を知りたくなりました。採用サイトには「女性活躍」などの魅力的な言葉が並ぶ一方で、実際の働きやすさは就職しないとわかりません。
そんなある日、会社員の夫から「最近、勤務先で男女賃金差や女性管理職比率などの情報を公表する準備を進めているらしい」と聞きました。さらに、その情報は厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」で誰でも確認できると知り、佐藤さんは興味を持ちます。
娘の将来を考える中で、佐藤さんは企業のイメージや口コミだけでなく、客観的なデータを知りたいと思うようになりました。
企業選びでは、求人情報や知名度だけでは分からない実態があります。近年は男女の賃金差や女性管理職比率などの情報が公開され、働きやすさをデータで確かめられる環境が整いつつあります。こうした情報をどのように活用すればよいのか、数字を見る際の注意点も含めて考えていきましょう。
女性の就活で注目したい「企業の実態」とは?
就職を考えるとき、給与や知名度だけでなく、長く働ける環境かどうかも気になるものです。しかし、採用サイトや会社説明会だけでは、実際の職場環境は見えにくいのが実情です。
そこで参考になるのが、企業が公表する男女賃金差や女性管理職比率などのデータです。2026年4月に、改正女性活躍推進法が施行され、従業員数が101人以上の企業には男女間賃金の差異や女性管理職比率の公表が義務づけられました。最新データはこれから順次反映されていきますが、これにより、求職者・転職希望者は、企業の実態をこれまで以上に把握しやすくなります。
なお、「男女の賃金の差異」や「管理職に占める女性労働者の割合」は、対象企業にとって公表が義務づけられた項目ですが、それ以外の「育児休業取得率」や「残業時間」などは、企業が任意で公表する項目です。
すべての項目が全企業で公開されているわけではない点には注意が必要ですが、公開されているデータは「企業が自らの課題を認識し、改善に取り組む姿勢」の指標ともいえます。
企業が公表する主なデータを知ろう
厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で公開されているデータを確認すれば、女性の活躍状況や働きやすさを客観的に比較できます。ただし、一つの数字だけで判断するのではなく、複数の項目をあわせて見る姿勢が大切です。具体的には、以下のような情報が公開されています。
▽男女の賃金の差異
男女の賃金の差異とは、男性の賃金を100%とした場合に女性の賃金がどの程度かを示す指標です。従業員が101人以上の企業では、この数字の公表が義務づけられました。
注意したいのは、この差異が大きいからといって一概に「女性が差別されている」とは言い切れないことです。例えば、技術職や営業職の割合、管理職の人数などによって差が生じる場合があります。
また、男女の賃金の差異については、「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」と区分がされているため、ご自身が希望する雇用形態のデータを確認するようにしましょう。
▽管理職に占める女性労働者の割合
管理職に占める女性労働者の割合とは、課長級以上の管理職(役員を除く)の中に女性がどの程度いるかを示すデータです。女性が昇進しやすい環境かどうかを考える際の参考になります。これも、従業員数101人以上の企業では公表が義務づけられました。
あわせて確認したいのが、男女の育児休業取得率です。特に男性の取得率が高い企業は、育児と仕事の両立を支援する職場風土が根付いている可能性があります。
女性管理職比率と育休取得率をあわせて見ると、女性が長く働き続けられる環境かどうかを判断しやすくなるでしょう。
▽さらに確認したい項目
女性の働きやすさを知るには、以下のデータにも注目するとよいでしょう。
・採用した労働者に占める女性労働者の割合
・男女の平均継続勤続年数の差異
・一月当たりの労働者の平均残業時間
・年次有給休暇の取得率
例えば、新卒採用者に占める女性の割合が高ければ、女性採用に積極的な企業と考えられます。
さらに、男女別の平均勤続年数も重要な指標です。女性の勤続年数が極端に短い場合は、働き続けにくい要因があるかもしれません。
また、残業時間や有給休暇取得率などのデータからは、働き方の実態が見えてきます。納得できる企業選びでは、複数の情報をふまえた総合的な判断が欠かせません。
なお、これらの情報については、公表が任意となっているため、非公開の企業もあることに注意が必要です。
実際にデータを比較してみる
佐藤さん親子は、実際に娘が興味を持っている企業3社を「女性の活躍推進企業データベース」で検索し、「女性の働きやすさ」という視点で比較してみることにしました。いずれも従業員数301人以上のIT関連企業で、採用サイトではどの企業も「女性活躍推進」を掲げていましたが、実際のデータを比較してみると、異なる特徴が見えてきました。
A社は、正規雇用労働者の男女の賃金の差異が82%となっており、比較的差が小さいことがわかりました。一方で、一月当たりの労働者の平均残業時間は3社の中で最も長く、娘は「給与面では魅力的だが、長く働き続けられるのだろうか」と不安を感じたようでした。
B社は管理職に占める女性労働者の割合が28%と高く、女性のキャリアアップに積極的な印象がありました。しかし、男女の平均継続勤続年数の差異を見ると男性が10.5年に対し女性が4.8年と開きがあり、女性が長く働きづらい背景があるのでは?という疑問を持ちました。
C社は、年次有給休暇の取得率が全体で72%と高く、一月当たりの労働者の平均残業時間も全体で9.5時間となっていて、佐藤さんも娘も「働きやすそうだ」と感じました。一方で、管理職に占める女性労働者の割合は9%となっていて、女性が昇進しづらい環境があるのかもしれないと考えました。
佐藤さん親子は、データを比較したうえで、それぞれの企業に感じた不安や疑問を整理し、会社説明会で質問をする準備を始めました。「企業説明会や面接で確認すべきことが明確になり、自分が何を大切にして就活をするかということを考えるきっかけになったようです」と、娘の様子を見た佐藤さんは話します。
データを活用して納得できる企業選びを
納得できる企業選びには、勤続年数や働き方など複数の情報を確認し、総合的に判断する視点が欠かせません。
「女性の活躍推進企業データベース」を活用すると、男女賃金差や女性管理職比率、育休取得率などを確認できます。こうしたデータを比較すれば、企業ごとの特徴を客観的に把握しやすくなります。公表情報を参考にすることで、自分に合う進路を選びやすくなるでしょう。
【出典】
厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
厚生労働省「自分らしい働き方を見つける ―女性の活躍推進企業データベースを活用しよう」
https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/series/20260302.html
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。