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倒れた叔父の家にエアコンは1台だけ…でもローンはなぜか「5台分」 契約したのは“命の恩人”で…どうすれば?【司法書士の現場から】

山下 静香 山下 静香

1DKの叔父の家にあったエアコンは、1台だけでした。それなのに、同じ機種のエアコンを5台購入したことになっている――。くも膜下出血で倒れた85歳の叔父。入院費を支払おうと通帳を確認した姪の道子さん(仮名・55歳)は、不審な契約に気がつきました。

契約の相手は、叔父と長年付き合いのあった電器店。しかも店主は、倒れていた叔父を発見し、救急車を呼んでくれた人でもありました。

なぜ、1台しかないエアコンが5台分の契約になっているのか。命を助けてくれた相手に、どう説明を求めればよいのか。対応に悩んだ道子さんは、割り切れない思いを抱えたまま司法書士事務所を訪ねました。

命の恩人だった電器店主

道子さんの叔父・敏男さん(仮名・85歳)は、元県庁職員でした。妻はすでに亡くなり、子どもはいません。趣味はクラシック音楽を聴くことでした。

自宅は1DK。広い部屋ではありませんでしたが、室内には成人男性の背丈ほどもある大きなスピーカーが2台と、安楽椅子が1脚置かれていました。電器店のAさんとは、その大型スピーカーを購入したときからの付き合いでした。

Aさんは週に3回ほど、敏男さんの自宅を訪ねていたといいます。ある日もいつものように訪問したところ、敏男さんが玄関を開けません。不審に思ったAさんが通報し、敏男さんは室内で倒れている状態で発見されました。くも膜下出血で身動きが取れなくなっていたのです。

敏男さんは病院に搬送され、そのまま入院することになりました。Aさんの通報が、早期発見につながった形でした。知らせを受けた姪の道子さんは、入院手続きや支払いなどを担うことになります。

年金が入るたびに消えていたお金

ところが、入院費を支払おうと敏男さんの通帳を確認した道子さんは、残高がかなり少なくなっていることに気づき、愕然としました。

通帳には、年金が入るたびに、ほぼ同じ金額が自動払いで引き落とされた記録が残っていました。敏男さんに尋ねると、心当たりとして出てきたのは「電器店のAさんからエアコンを1台買った」という話だけでした。

そこで自宅を探したところ、信販会社のローン契約書が見つかります。そこには、同じ機種のエアコンを5台購入したことになっていました。

敏男さんの自宅は1DKです。実際に設置されていたエアコンは1台だけでした。道子さんがAさんに事情を尋ねても、残り4台について納得できる説明はありませんでした。

「残り4台」の説明はなかった

道子さんは、どう対処すればよいか分からなくなり、私たちの司法書士事務所に相談に訪れました。

「電器店のAさんには、この契約について確認されたのですか」

そう尋ねると、道子さんはこれまでの経緯を説明しました。

「はい。残り4台について聞いたのですが、『(叔父さんは)いいよと言っていた』『残り4台については知らない』と言われるだけでした。話し合いにならなくて…」

道子さんは、ほかにも同じような契約があったのではないかと不安に感じていました。ただ、手元にある資料は、エアコン5台分のローン契約書だけです。まずは、この契約についてどう対応するかを考える必要がありました。

ただ、Aさんは敏男さんにとって命の恩人でもあります。単純に責めることもできませんでした。

「Aさんが叔父を助けてくれたことには感謝しています。叔父が長く付き合ってきた相手でもありますし、いきなり訴訟のような大ごとにはしたくありません。ただ、このまま支払いが続くと、入院費にも影響します。何とか穏便に解決できないでしょうか」

道子さんの希望は、残り4台分のローンについて説明を求め、今後の支払いをどうにかしたいというものでした。

信販会社への報告という選択

そこで司法書士は、信販会社に事情を伝える方法を提案しました。

「今回の契約について不審な点があることを、信販会社に報告する方法があります。仮に信販会社がこうした件に積極的に関わりたくなかったとしても、内容証明郵便で正式に通知すれば、対応を検討せざるを得なくなるはずです」

販売店を通じて組まれたローンについて不審な点があると知らされれば、信販会社としても放置しにくくなります。Aさんにとっても、信販会社との取引に影響が出る可能性があります。

「信販会社に直接報告するか、その可能性をAさんに伝えたうえで、あらためて対応を求めるか。そういう方向で考えてみてはいかがでしょうか」

道子さんは、信販会社に内容証明郵便を送る方針を決め、帰っていかれました。

内容証明を送る前日の出来事

ここからは、後日の話です。

道子さんは、エアコン5台分のローン契約について信販会社に経緯を説明するため、内容証明郵便の文面を準備していました。

翌日に郵送すると決めた日、道子さんの夫がAさんの店を訪ねました。そして、「この文書を明日、信販会社に内容証明郵便で送ります」と伝え、文面のコピーを置いてきたそうです。

正式な通知を出す前に、Aさんが話し合いに応じる最後の機会をつくりたかったのでしょう。

すると翌日、エアコン分の代金はすべて信販会社に支払われ、敏男さんのローン残債はなくなっていました。どうやらAさんが、信販会社に残額を一括で支払ったようでした。

その後は年金が入れば、敏男さんの入院費も問題なく支払えるようになりました。

   ◇   ◇

今回のように、相手方との関係性が複雑な場合、当事者だけで対応しようとしても、何から始めればよいか迷うことがあります。直接の話し合いが進まないときでも、信販会社への通知など、相手が対応を考えざるを得ない方法を検討できる場合があります。専門家に相談することで、争う以外の解決方法が見つかることもあるのです。

◇山下静香(やました・しずか)関西第一司法書士事務所所属。事務職兼社会福祉士。
相続、成年後見、不動産登記などの実務に携わる一方、高齢者支援や福祉分野にも従事。 法律と生活、双方の領域にまたがる現場経験をもとに、「制度の中で実際に起きていること」をテーマに執筆している。 相続や介護、家族をめぐる身近な問題について、わかりやすく伝えることを目指している。

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