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老舗宿で、客がタバコを吸った跡→禁煙と伝えていたのに…… 女将「弁償金、請求します」とSNSで宣言、その後は?

宮前 晶子 宮前 晶子

「またしても、客室でタバコを吸っていた不届なお客様が。カーテンに染みついた臭い、窓辺の灰、 入ればすぐに分かります。チェックインの時に十分注意しました。

利用規則にも同意して頂きました。申し開きは受け付けません。 清掃代、クローズ分の弁償、きっちり請求します」

鎌倉時代(1312年)に開湯された山形県米沢市の白布温泉に唯一残る茅葺の宿・西屋。江戸時代中期から昭和時代に建てられた本館は築100年を誇り、屋内・屋外含め、敷地内全館禁煙としています。

しかし、部屋でこっそり喫煙した跡が、残っていました。「客室のクリーニング代など全額請求します」と宣言し、対応に当たった西屋の女将に取材しました。

喫煙した客に電話をすると… 

喫煙の事実に気付いたのは、宿泊客がチェックアウトしてすぐ。スタッフが客室に入ると、タバコのにおいが充満しており、窓際には吸い殻が落ちていました。

「1泊のお客様でした。寒いのに、チェックイン後から窓を開け放ってテラスに座っていたのを何度か目撃しており、“何をしているのだろう? チェックイン時に全館禁煙をお伝えしているので、まさかタバコではないと思うけど”と気にはなっていました。

吸っていた姿を実際に見てはいませんが、結局そのタイミングで喫煙をされていたようでした」

該当の客に電話連絡して対応を伝えました。

「お宿帳に『民法548条の2に基づき宿泊約款および利用規則を契約の内容とすることに同意します』という項目を設け、はいのチェック欄に直接記入して頂いています。

にもかかわらず、それをお客様が破り、喫煙していた痕跡を見つけたこと、しかるべき措置を取ることを冷静に告げ、追って振込先と請求金額を連絡すると伝えました」

電話を受けた客は、「しまった…バレた…」というリアクションを取りつつも、「(弁償は)いくらですか?」。あっさりと事実を認め、追加料を支払うことで話は決着しました。

タバコのにおいが部屋にしみつくと、なかなか簡単には消えないため、件の部屋の至るところに消臭スプレーを撒き、換気するとともに、カーテンはすべて外して洗濯。 他にも火で穴が開いているところなどを、女将自ら、くまなくチェック。

「少しでも証拠になる箇所があれば、記録におさめ、ひたすら清掃し、お客さまをお迎えできる状態に戻したのは翌々日でした。費用というよりも、スタッフの労力が費やされました」

後日、弁償金の入金も確認。一件落着したことをSNSで報告します。すると、状況を見守っていた人々からは、「違反者にはきちんと処罰を与える姿勢が信頼をおけます」「客ならば何をやっても良いと勘違いする客には、しっかり社会的責任を果たしてもらいましょう」など、宿の毅然とした姿勢を称賛するコメントが相次ぎました。

「ちょっとぐらい大丈夫」による損害

西屋が完全禁煙に舵を切ったのは、健康増進法が改定された2020年4月以降。電子タバコもにおいがきついため、例外は設けず、タバコの類は一切禁止としています。

当時は弁償などについては明文化しておらず、館内のいたるところに禁煙の張り紙を掲示しているだけでした。

「その頃は、隠れての喫煙が1年に2~3回ありました。部屋の中に残した缶ビールの中に吸い殻が入っていたり、トイレで吸ったと思われる跡があったり。お客様を特定することができない状態の喫煙があり、残念に思っていました」

チェックイン時に利用規則を提示するようになったのは3年前。喫煙を巡る騒動で、酷評コメントを旅行サイトに書き込まれたことがきっかけでした。

「それ以降、重要項目には黄色のラインを入れて説明し、同意後にお客さまをお部屋にご案内するようになると、ルールを破るお客さまはほぼなくなりました」

それだけに今回のことはスタッフともども、驚きとともにショック、絶望感もあったそうです。

実は、かつて、白布温泉には茅葺母屋の宿東屋・中屋がありました。しかし、2000年に原因不明の火災によって全焼。すぐそばに立つ2件の宿が、一瞬で燃えて消失してしまった恐ろしさを西屋は経験しています。

江戸時代の面影を今に遺す唯一の宿として、火の気を避けたいという強い思いでもって、客を迎えているのです。

その思いを受け止め、「そもそも白布温泉に喫煙具は持ち込まない。うっかり持ってきてもチェックインの際に御預けするくらいの気持ちでいます。最悪のケースが起きた際に、再建が極めて難しい唯一無二のお宿」という声もありました。

今後のために対策も検討中、賛同する声も

今回の喫煙騒動を経て、デポジット制(預かり金・保証金)の導入も視野に入れるようになったとのこと。

「信用商売を否定するのでは?と考えたこともあったのですが、海外ではすでにデポジット制が定着しているとのお声がありました。

インバウンド客のトラブル防止のためにも導入することは時代の流れとして当然である、というご意見も沢山いただきました。

ただ、まだまだ観光業界への認知は薄く、1軒だけでやるにはなかなかハードルが高いと思います。どのように徴収するのか、いくら預かるのかなど、お客様との信頼にも関わります」

『一般社団法人 日本文化遺産を守る会』会員であり、11月の喫煙騒動後に行われた総会では今回のことを報告するとともに、将来的にデポジット制の設定を義務化するなど何らかの形で動いていった方がいいのでは、と提案も行ったとのこと。

「会としても、貴重な建物などの財産を守る立場として非常に共感をしてくださり、いずれ何らかの形でデポジット制の導入を前向きに検討していく必要があるとコメントをいただきました」

SNSでは聞き慣れないデポジット制に対して、「好きな人は前金払ってでもその宿に行きます」「宿泊施設もお客を選べる権利があります 施設の考え方が理解できる客だけが利用できる、で全く問題ない」と賛成が多数だったそう。

「今回のことが、宿とお客様のありかたについて、社会に改めて問うきっかけになれば幸いです。

商売を成り立たせつつ、日本の古い伝統文化や文化財級の古いたたずまいをいかに守り、次の世代に伝えていくか、どこも共通して模索しているところです」

■女将兼湯守@西屋旅館 X @Nishiyaryokan
■白布温泉 湯滝の宿西屋  https://nishiya-shirabu.jp

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