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弟は遺伝性難病 母は年の大半を病院で過ごし家族はいつもギリギリだった 「きょうだい児」の姉が出生前診断について思うこと

渡辺 晴子 渡辺 晴子

「出生前診断、もし陽性だったら残念だけど中絶する予定。私の弟は一級手帳の障害者なんだけど、みんな障害児と暮らす過酷さを舐めすぎ。きれいごとじゃないからね」

そんな投稿がXで大きな反響を呼びました。

投稿したのは、海外在住の会社員「Yun 10w」さん(@yunuizaki)。現在妊娠中で、出生前診断の一つであるNIPT(新型出生前診断)を控えているといいます。

投稿には賛否さまざまな意見が寄せられましたが、多くの人が注目したのは、出生前診断そのものよりも、障害のある家族とともに生きてきた当事者の率直な言葉でした。

今回、投稿の背景や家族の歩みについて話を聞きました。

「授乳期が20年続くような生活だった」

Yunさんの弟さんは、国の指定難病にも定められている先天性の遺伝性筋疾患があります。全身の筋力が低下する病気で、自発呼吸が難しいため、幼い頃に気管切開の手術を受け、人工呼吸器を装着して生活していました。この手術は小学校に上がる前には受けていたといいます。

また、小児期には50メートル歩くことも困難な状態で、車椅子で生活していました。

痰の吸引は昼夜を問わず必要で、状態が悪い時には1時間おきに処置が必要だったといいます。

「両親は弟が生まれてからまともな睡眠を取れていなかったと思います。赤ちゃんで言うと、授乳期が20年続くと思っていただくとわかりやすいでしょうか」

風邪がすぐ肺炎につながるため、母親は一年の大半を病院で過ごしていました。家族全員が慢性的な睡眠不足と介護疲れの中で暮らしていたと振り返ります。

「家の中は常に張り詰めたような空気でした。なぜ怒られているのかわからないことで怒られたり、昨日と今日で言うことが違ったり。今思えば、大人たちも精神的に限界だったのだと思います」

家族の生活は常に弟さんの体調が中心でした。旅行の予定は入院で何度も中止になり、誕生日当日に両親に会えないことも珍しくなかったそうです。

こうした環境の中で、Yunさん自身も中学3年生の頃から不登校となり、大学進学まで抑うつ状態が続いたといいます。

「弟が死ねばいいのに」と思っていた

Yunさんは、大人になって家族とのわだかまりが少しずつ解消された頃、母親から初めて本音を打ち明けられたといいます。

それが、投稿でも大きな反響を呼んだ次の言葉でした。

「どうかこのまま死んでくれと思ったという母の気持ちほど矛盾で溢れた愛情がこの世にあるものか」

この言葉を聞いたとき、Yunさんは「『ああ、母も人間なんだな』と思って安心しました」と振り返ります。

「『なんだ、お母さんもそう思ってたのか。そりゃそうだよね』と思いました」

実はYunさん自身も、きょうだい児として過ごした幼少期には、弟を憎んでいた時期がありました。

「弟のことは死ねばいいのにといつも思っていました」

しかし、その感情を口に出すことは許されないと理解していたため、周囲には「病気の弟を思いやる優しい姉」を演じ続けていたといいます。

「気が狂いそうでしたが、それがきょうだい児としての生存戦略でした」

母親の言葉を聞き、我が子を愛しているからこそ苦しみ、葛藤していたのだと初めて理解できたといいます。母親が自分にその本音を打ち明けてくれたことも、「娘としてうれしかった」と振り返りました。

「制度だけでは解決しない」

今回の投稿には、多くの当事者や家族から共感の声が寄せられました。

「我が子だからこそ苦しませたくない」
「障害児を持つとその後の人生を全て捧げることになる」
「命だからこその話」

一方でYunさんは、障害者家族の問題を制度だけで解決できるとは思っていないと話します。

「障害者家族を取り巻く環境は、金銭的、心理的、社会的な負担で成り立っています」

きょうだい児の中には、障害のある家族がいることを理由に結婚や就職で偏見を受けたり、自分の子どもへの遺伝を恐れて出産を諦めたりする人もいるといいます。Yunさん自身も、その不安から子どもを持つ決断に長い時間がかかったそうです。

「どれだけ支援が手厚くなっても、心理的・社会的な偏見や恐怖がなくなるわけではありません。制度だけでは変えられない、人間の意識の問題もあると思います」

「家族依存」から脱却を

障害福祉政策に詳しい日本障害者協議会(JD)代表の 藤井克徳 さんは、出生前診断を巡る議論で忘れてはならない視点があると指摘します。

「最終的な判断は家族が行うものですが、大前提として、日本では障害のある人が生きづらく、家族も将来不安を抱えやすい社会構造があります」

藤井さんは、その背景として障害者支援が家族に依存している現状を挙げます。特に「親亡き後問題」は長年続く課題で、障害のある子どもを持つ親からは「この子より一秒だけ長く生きたい」という切実な声も聞かれるといいます。

また、民法877条では親族間の扶養義務が定められており、日本では今も家族が支えることを前提とした考え方が根強く残っています。

一方、オランダなどでは成人後に社会全体で支える仕組みが整えられており、「家族扶養から社会扶養へ」の転換が進んでいるといいます。

「障害のある人も家族も、家族依存から脱却できる仕組みづくりが必要です。それがなければ、将来への不安はなくなりません」

家族を支える制度も

現在は、医療的ケア児支援法や障害児福祉サービス、レスパイトケア、ショートステイ、相談支援制度など、家族の負担軽減を目的とした制度も整備されています。

また近年は、障害のある子どもの兄弟姉妹である「きょうだい児」への支援も少しずつ広がっています。ただ、利用しやすさや地域差などの課題も指摘されており、支援が十分に行き届いているとは言えない状況です。

今回の投稿は、出生前診断の賛否を問うものではありません。

障害のある家族と生きる人たちが抱える現実や葛藤、そして社会全体で何を支えていくべきか…その問いを、多くの人に投げかけるきっかけとなったようです。

最後にYunさんはこう語りました。

「障害者家族と社会を取り巻く問題は何百年も続いている課題です。すぐに解決するものではないと思います。でも、明日一人でも多くの障害者とその家族が笑って一日を過ごせるように願っています」

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