付き合って3年の彼氏に結婚直前で振られました―。そう打ち明けるのは、4歳年下の自閉症の弟を持つ東京都在住の女性(26)。兄弟姉妹に障害者がいる、いわゆる「きょうだい児」だ。振られた理由は、子どもができた場合、障害が遺伝する可能性がぬぐいきれないからだという。「付き合った当初から、弟のことは何度も話し合ってきてきました。健常者の子どもがほしい気持ちも分かるので、誰も責められないですが、やるせなくて…」と言葉を詰まらせる。
弟は最重度の自閉症で言葉を話すのが難しく、「あー」「うー」と喃語を発する。突然走り出すなど落ち着かない部分もあるが、「人間として面白い部分もあります。自分の着る服は無地がいいなど、こだわりが強くて。母がチェック柄を着ていると怒ります(笑)」と話す。
弟さんの将来、どう考えていますか?
今回の彼とは、2021年1月にアプリで出会い、趣味のゲームで意気投合した。弟の障害は付き合った直後に伝え、半年後には彼の母親にも話していた。ただ、同棲前の昨年4月に、彼を通して彼の両親から尋ねられた。弟さんの将来についてどう考えていますか―?
「これまで、弟が原因で恋愛をハードルに感じることはなかったのですが…」とショックを受ける女性。女性の両親も娘に迷惑を掛けたくない、と施設への入所やお金も残すことを真剣に伝えてくれた。彼にも「弟の障害で不安は一生、付いてまわるものだから、別れるなら今じゃない?」と腹を割って話した。彼の家族も「ちゃんと考えてくれているのね」と納得してくれた。
昨年5月に同棲してからは、毎日が幸せだった。同じ趣味のゲームを楽しんだり、家事や料理を助け合ったり。だが、今年1月8日の夕食後、彼から「別れたい」と告げられた。
医学的根拠はないけれど
「弟の遺伝についてだけど…」。そう切り出した彼は、医学的な根拠がないとしながらも、子どもが生まれた時に、障害の確率が他の人よりはあるかもしれない―と持論を述べた。子どもに障害があった場合、彼の母が責める可能性があり、板挟みになる自分がつらい、とも。説得しようとしたが、彼は譲らなかった。
「散々話し合ってきたのに、今言うんだって。頭が真っ白で…」。一晩中話し合う中、女性は涙で顔がぐしゃぐしゃになった。そして、翌日は一人で過ごし、仕方ないという気持ちが出てきたという。「バツイチは嫌、顔がタイプとか、誰もが結婚相手に求める条件があると思うんです。それがたまたま、きょうだい児が嫌というフィルターだったのかな」。自分に言い聞かせながら、別れることを決めた。両親に報告した際、悲しい顔をさせたことが、とても苦しかった。
救われたのは、SNSだ。辛い思いをXに吐き出すと、同じきょうだい児から励ましの声が寄せられた。「自分も婚約破棄になりましたが、その後は理解のある人と一緒になって幸せです」「生まれつきの病気や特性に関する問題を相談できる『遺伝カウンセリング』もありますよ」など。「もう恋愛結婚が無理なのかなって一人で抱え込んでいたんですが…いろんな人を知れて、視野が広くなりました。今でも浮き沈みしながら、ふとした時に落ち込んでしまいます…。ですが、少しでも前を向ければと思います」
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〈きょうだい児〉全国的な人数や実態は不透明。厚生労働省の補助を受け、2020年に民間シンクタンクが行った全国調査で、「きょうだい児がストレスを抱えているように感じる」と回答した家族は528件中、59.3%だった。