目の前に耳が聞こえない人がいた場合、「どのように意思疎通を取ればよいか」と悩む人も多いでしょう。自身も聴覚障害がある漫画家・うさささんはkodomoe WEBにて連載中の作品『耳がきこえない私が社会人になりました。』第1話にて、他に聴覚障害者がいない職場に配属させられる苦労を描いています。
それは会社の入社式でのことです。人事部の人が放った言葉によって、周囲の場が一瞬凍ったように作者は感じていました。しかし、作者は耳が聞こえないため、場の状況がまったくわかりません。
また会社側は、作者に配慮してか入社式の席を最前列にしてくれていました。しかしこの配慮に実は聴覚障害者は困ってしまうようです。その理由は、周囲の人の様子をうかがうことができず、不安になってしまうからです。
さらに自分の横では、他の人事の方が必死に筆談をしてくれています。筆談だとワンテンポ遅れてしまうため、作者は「手話通訳者がいればどんなに心強いか」と感じます。
そんな中、突然人事部担当から「明日からの研修期間は同期のみなさんが交代で筆談してもらいます!」と告げられます。これに対して作者は、覚えることがたくさんあるのに筆談までやらせるのは申し訳ないと思うと同時に、自分の意思はまったく関係なく進むことに驚きを隠せないのでした。
聴覚障害と現代社会のギャップについて描いた今作について、作者のうさささんに話を聞きました。
「どうすればお互いにとってやりやすいか」をすり合わせていくことが大切
―同作の入社式は、実際にうさささんの実体験をもとに描かれたのでしょうか?
はい、何年も前の実体験をもとに描いています。新人として入社した会社にはろう者がひとりもおらず、「これが普通なのかな…?」と戸惑いながらも、自分なりにその環境で奮闘していました。
笑った日もあれば、泣いた日もあり、聴者(耳が聞こえる人)の優しさに救われたこともあれば、そうでない現実に複雑な感情を抱くこともありました。そうした様々な感情が交差する日々を漫画にしています。
また、当時はガラケーの時代で、今のようなスマホの音声認識アプリのような支援技術も十分ではありませんでした。その頃の不便さを伝えると同時に、令和の今でもなお残っている課題についても描いています。
―「一番前の席だと逆に不安になる」というのは意外でした。うさささんとしては、どのあたりの席だともっとも落ち着いて臨めるのでしょうか?
私のように、音を正しく聞き取ることが難しいタイプの感音性難聴の場合(例えば「こんにちは」が「う*:@あ」というふうに別の音に聞こえてしまう)、一番前の席だと周囲の様子が見えず、かえって不安を感じてしまうことがあります。
私にとっては、目に見える情報も大切な手掛かりになるため、全体を見渡せる後方の端の席の方が落ち着いて過ごしやすいです。中央でも問題はありませんが、できれば端に近い位置だとより安心できます。
ですが、聞こえ方や感じ方は人それぞれ。耳が聞こえづらい方などは前方の席の方が音を捉えやすいかもしれません。最終的には本人に確認するのが一番大切だと思います。
―同作のように一方的ではなく、それぞれの意思を疎通するためには、どのような心がけが大切でしょうか。
障害者本人と事業者側で対話をすることが大切だと思っています。
第8話目では避難訓練のエピソードを描いているのですが、対話がなかったことで、情報がうまく共有されない出来事がありました。私は事前に「避難訓練がある」ということ自体は知っていたものの、何時に・どこで・どのように行われるのかまでは共有されておらず、実際の案内も音声のみだったため、訓練が始まっていることに気づかず仕事をし続けてしまっていました。
「耳がきこえない」から「耳元で大声を出せば伝わるだろう」そう思われがちですが、実際はそうではありません。互いの思い込みによって、どうしてもすれ違いが起きてしまいます。だからこそ、一方的に配慮をする・求めるのではなく、「どうすればお互いにとってやりやすいか」を言葉にしてすり合わせていくことが大切だと感じています。
本作「耳がきこえない私が社会人になりました。」では、そうしたすれ違いや対話の大切さを、日常の出来事を通して描いています。聴者の視点では気づきにくい部分も含まれていると思いますので、ひとつの気づきとして読んでいただけたら嬉しいです。
<うさささん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/usasa21
▽Instagram
https://www.instagram.com/usasa21/
▽note
https://note.com/usasa21
▽kodomoe WEB『耳がきこえない私が社会人になりました。』
https://kodomoe.net/serial/kikoenai_shakaijin/84456/