体力の高い学生ほど、卒業後の年収が高い傾向――そんな調査結果が、東京大学で約60年にわたって行われてきた体力調査と大正製薬株式会社(東京都豊島区)の調査から明らかになりました。本記事では、体力と人生の知られざる関係性と、青年期の運動習慣や食事・栄養の重要性について紹介します。
東京大学では、実技授業の一環として、入学時(4月)と1年終了時(12月)に垂直跳び、反復横跳び、腕立て伏せ、踏み台昇降、身長、体重が測定されます。
約60年にわたるデータを見ると、「身体を動かす基礎能力」である跳ぶ力、支える力、持久力が、男女ともに低下しています。男子では垂直跳びや腕立て伏せが1980年代後半以降、低下傾向にあり、女子も特に腕立て伏せが2025年に大幅に落ち込みました。
体格そのものに大きな変化はなく、食生活もむしろ改善している中で、このような結果がみられる背景には、生活の利便性向上や屋外で身体を使う機会の減少といった生活様式の変化に加え、コロナ禍の影響も重なり、運動機能が全般的に弱くなっている可能性が考えられるといいます。
同社が2026年4月に全国の18~29歳の男女1000人を対象に実施した運動頻度によると、「まったくしていない」が44.6%と最も多く、次いで、「週2~3日程度」(13.4%)、「ほとんどしていない」(11.8%)、「ほぼ毎日」(11%)という結果でした。
この結果について東京大学名誉教授の八田秀雄氏は、「運動すると脳への血流が促進されるなど、脳にも好ましい影響があり、集中力や思考力の維持につながる可能性があります。さらに、適度な運動は自律神経のバランスを整え、ストレスの軽減や睡眠の質の向上にも寄与します。こうした心身の状態が整うことで、結果として学習効率や仕事のパフォーマンスを安定して高めることができます」と説明。
さらに、「体力を高めるために、長時間あるいは高強度の運動を行う必要があるわけではありません。運動の効果は単純な『量』ではなく、『強度』と『休息』のバランスによって大きく左右されます。過度な負荷や慢性的な疲労は、身体だけでなく精神面にも影響を及ぼし、かえって運動の継続を難しくする要因となることもあります。そのため、運動習慣を身につけるうえでは、『どのように身体を使うか』と同時に、『どのように回復させるか』という視点も重要です」と指摘しています。
また、「従来運動習慣がなかった人にとっては、週1回でも継続して身体を動かすことに十分な意味があります。まずは無理のない範囲から始め、継続できる形で取り入れていくことが大切です」とも述べています。
運動習慣を支えるうえで欠かせない食事と栄養
運動の効果を十分に引き出し、無理なく継続していくためには、食事と栄養の管理も欠かせません。身体を動かすことでエネルギーが消費され、筋肉にも負荷がかかるため、それを支える栄養が不足すると、疲労の蓄積やコンディションの低下につながります。
同社が先の調査と併せて実施した「運動時に意識して摂取している飲み物・食べ物」に関するインターネット調査において、「水」(265人)、「お茶・無糖飲料」(184人)、「スポーツドリンク」(110人)が上位となり、水分補給やカフェイン、プロテイン飲料などの摂取への意識が高い半面、その他の栄養素摂取への意識や知識がまだ浸透していない可能性が見てとれました。
基本として大切なのは、主食・主菜・副菜をそろえた、バランスのよい食事をとることです。そのうえで、運動の強度や目的に応じて必要な栄養素を意識することが、日々のコンディション維持や、無理なく運動習慣を続けることにもつながります。以下に運動時に意識したい栄養素や成分について紹介します。
▽タウリン
タウリンは魚介類に多く含まれ、体内では浸透圧の調整や細胞機能の維持に関わり、筋肉を含む体内環境を整える働きを行います。動物実験では、タウリンを摂取したマウスの方が持久的に走り続けたという結果もみられており、運動時の身体の状態を支える成分として注目されています。
また、2013年にBalshaw TGらにより行われた中距離ランナーを対象とした試験では、運動前にタウリンを摂取することで、3km走のタイムトライアルにおけるパフォーマンスが向上したことが報告されています。
タウリンは、発汗量の増加や深部体温の上昇抑制などから体温調節機能に影響し、過酷な環境下でもパフォーマンスを維持しやすくなる可能性があります。激しい運動をする人はもちろん、運動習慣をこれから身につけたい人、日々のコンディションを整えながら身体を動かしたい人、運動後の疲れをできるだけ残したくない人にとってもおすすめの栄養素です。
▽糖質
糖質は運動時に重要なエネルギー源の一つであり、特に運動強度が高いほど筋肉に必要になる栄養素です。主食を極端に減らしてしまうと、力が出にくくなるだけでなく、集中力の低下や疲れやすさにもつながります。運動時はもちろん、日常生活の中で活動量を保ち、運動習慣を無理なく続けるためにも、食事の中で適量を確保することが大切です。
▽たんぱく質
たんぱく質は筋肉だけでなく、血液や酵素、ホルモンなど、身体をつくる材料となる栄養素です。運動によって負荷がかかった身体を修復するうえでも欠かせません。激しい運動の後はもちろん、軽い運動であっても、それを習慣として続けるには、筋肉量や身体機能を保つことが重要です。たんぱく質は競技者だけのためのものではなく、日常的に身体を動かすための基礎としても大切な栄養素です。
▽鉄
鉄はヘモグロビンの材料となり、全身に酸素を運ぶ役割を担います。不足すると、疲れやすさや息切れ、持久力の低下につながることがあります。特に、月経のある女性や食事量を控えがちな若年女性では不足しやすく、運動習慣がある場合には意識したい栄養素です。日々の活力や、コンディションを支えるうえでも重要です。
▽ビタミンB群
ビタミンB群は糖質やたんぱく質、脂質をエネルギーに変える際に必要な栄養素で、身体を動かすための土台を支える働きがあります。どれだけエネルギー源となる栄養素をとっていても、それをうまく使うためにはビタミンB群が欠かせません。不足すると、疲れやすさやだるさ、集中力の低下につながることがあります。運動量が多い人はもちろん、日常的に活動量を保ちたい人や、勉強・仕事と運動を両立したい人にとっても意識したい栄養素です。
体力のある学生ほど、卒業後も活発で年収も高い傾向
運動は、メンタル不調の改善や予防、さらには将来の社会生活にも影響をもたらします。東京大学身体運動科学研究室が実施した「東京大学体力テスト研究(UTFS)調査」では、卒業生を対象とした追跡調査も行われています。
その結果、学生時代に体力が高かった人ほど、卒業後も活動量が多く、精神的不調で医療機関にかかる人が少ない傾向がみられました。
さらに、社会的活動にもより前向きで、年収も高い傾向が確認されています。こうした結果は、体力が日々の生活や仕事を支える基礎的な力として働いている可能性を示しています。体力がある人は、忙しさや負荷がかかる状況でも気力や集中力を保ちやすく、困難な場面でも粘り強く取り組みやすい可能性が考えられます。
学生時代の運動経験は重要ですが、それ以上に大切なのは、生涯を通じて身体を動かす習慣を持ち続けることです。青年期に運動していても、その後にやめてしまうより、成人後も運動習慣を維持することの方が大きな意義があります。よりよい生活を送るためには、どのようなタイミングから始めても決して遅くはありません。過去の運動歴にとらわれず、その時々の生活の中で少しずつでも身体を動かし続けることが重要です。