若い頃に『網膜色素変性症』という難病を患い、視力を徐々に失ったセアまりさん(本名・浅野麻里さん=75歳)は、3年という歳月を掛けて27枚の絵を描き上げました。絵物語『繫げて』と名付けられた作品のテーマは、小さな命(動物たち)の尊さ。1歳になるかならないかで捨てられていて、約20年一緒に暮らした元捨て犬や、人生を共に歩んできた3匹の盲導犬への思いを、ノンフィクションとフィクションの境界線上で描きました。
「小学校に上がる頃には、すでに自分の命よりも動物たちの命を重く感じるような子供でした。保護した犬が年齢を重ね、全盲になっても、やせ細っても、私自身の目がどんどん見えなくなっても、命ある限り見放してはいけない、そう思っていました。70年たった今も、その気持ちは少しも揺らいでいません」
セアまりさんは毅然としてそう言いました。
「汚れている、かわいくないといった理由で誰からも目を向けられない犬や猫、人間の楽しみのために動物園に閉じ込められている動物たちのことを、私は幼い頃からずっと気にかけてきました。自分が楽しんでいるその裏に、悲しい思いをしている命がある。そう思うと、心の底から無邪気に楽しめない子供でした。台風が来れば、あの子たちは大丈夫だろうかと心配になり、寒い日には震えている命を思い、暑い日には外につながれた犬たちのことが胸に浮かびました。思い返せば、いつも100パーセント晴れやかな気持ちでいたことはなかったように思います」
子供の頃からずっと犬や猫と暮らしてきたセアまりさん。初代盲導犬・フリルを迎えたときには先住犬と先住猫がいて、右手に先住犬のリード、左手に盲導犬のハーネスを持って歩いたと言います。それは2代目・ベーチェルのときも。すれ違う人たちに「最後まで命を引き受けてほしい」というメッセージを伝えながら――。
フリル、ベーチェルに続いて、今は3代目・ステラが隣にいます。セアまりさんがさまざまなことにチャレンジできるのも、盲導犬たちの存在があればこそ。
「この子たちに出会う前は、心が乱れたり、沈んだり、後ろ向きになることも多くありました。けれど、盲導犬たちはいつもその気持ちを静かに整え、私に穏やかな人生を与えてくれました」
すべての命は大切にされるべき存在
4月21日(火)~28日(火)、冒頭で紹介した27枚の絵の作品展『見えない私が描く世界』が東京・新宿の京王プラザホテルで開催されますが、3年に及ぶ制作の過程で、彼女は視力を完全に失いました。なぜ、そこまでして…。
「目が見えない私にできることは限られています。でも、だからこそ、思いを絵にして“啓発”として残したかったんです。最初はイラストレーターさんにお願いするつもりでしたが、私の思いが強すぎたのか、引き受けてくださる方に出会えなくて(苦笑)。それなら自分で描くしかない!と決心しました」
もちろん一人では描けません。セアまりさんの思いに共感し、彼女の“目”となってサポートしてくれる方たちがいたおかげで生み出された作品です。
「iPadの光が網膜色素変性症に良くないことは分かっていました。でも、あきらめることはできませんでした。視力を失ったことは深い悲しみですが、後悔はしていません。人生の終焉に向かう時間の中で、これほどまでに何かに打ち込めたことは、自分にとって大きな意味がありました。
私が伝えたかったこと――それは、どのような境遇であっても、すべての命は大切にされるべき存在だということです。ペットショップで売られている子にも、見えない物語があります。望まれずに生まれた野犬の子たちにも、かけがえのない命が宿っています。そのことを知った上で、動物と共に生きるという選択をしてほしいのです。
世の中には人の手によって作られ、商品価値が高いと選ばれる子もいれば、そうでないと判断される子もいます。その“選ばれなかった命”はどこへ行くのでしょうか。『かわいい』という気持ちは自然で尊いものです。でも、目の前の1匹だけではなく、その背景にあるすべての命に思いを寄せてほしいのです。絵物語『繫げて』を見てくださる皆様に、そんな私の思いが伝わることを願っています」
『セアまり作品展 見えない私が描く世界』
期間:2026年4月21日(火)~28日(火)
時間:10:00~17:00(最終日~15:00)
会場:京王プラザホテル本館3階ロビーギャラリー(東京都新宿区西新宿2-2-1)
※見えない方、見えにくい方にも作品を理解していただけるよう、作品にはすべて音声ガイドが付いています