“特級呪物”と格闘した日々。
封鎖後のトー横を舞台に、居場所を求める若者たちの哀しき彷徨を描いた映画『東京逃避行』。行き場のない少女たちを歌舞伎町に誘い込む日和を、池田朱那(24)が演じている。
脚本を手に取るのも嫌に
暴力的な父親から逃れるために歌舞伎町で生きる日和は、“界隈バースト”を名乗ってSNS上で自伝的小説を公開。それに引き寄せられて歌舞伎町を訪れる少女たちを搾取の生贄にしていく。孤独を抱える女子高生・飛鳥(寺本莉緒)と運命的に出会うまでは…。
「出来る限り心からの衝動で、弱さも強さもグチャグチャになろうが、自分自身が壊れるくらいまですべてを出し切るような役を演じてみたい。その願望が今回、叶いました」
無事に作品が完成し、劇場公開が始まった今でこそ池田は手応えを語る。だが撮影中は、脚本を“特級呪物”と命名してしまう程に苦しんだらしい。
日和というキャラクターを膨らますために、歌舞伎町で若者たちの支援を行う団体に取材。実際のケースや問題の背景を探り、納得するまで役作りに時間を費やした。
「想像だけでは説得力に欠けるし、嘘になる。日和のセリフ一つ取っても嘘のない映画にしたくて自発的に話を聞きに行きました。そこから得たものをベースに、映画では語られない日和の家庭環境やトー横を訪れるまでの背景を膨らませたり、日和としての日記を書いたりしました」
家庭内暴力、オーバードーズ、売春、裏切り。綿密なリサーチによって「深いところまで日和と一緒に生きる事ができた」半面、非情な現実の数々を目の当たりにして心がすり減っていたのもまた事実。
日和が置かれたシビアな状況に「撮影中は心が苦しくなる時もあって、途中から台本を読むのも手に持つのも嫌になりました」
歌舞伎町で涙止まらず
飛鳥から「ここから逃げよう!」と手を引かれる劇中シーンでは、本番前から涙が溢れて止まらなかったという。
「秋葉恋監督からは『笑って欲しい』という演出があったので私としては笑っているつもりが、涙が止まらずに歪な笑顔になっています」と照れながら「歌舞伎町で虚勢を張って生きてきた日和の弱さが飛鳥にバレて、初めて他人に心の底を見透かされた気がした。そう思った瞬間に閉ざしていたものが、私としても我慢していたものが一気に爆発。笑っていなければいけないのに涙が止まらないなんて初めての感覚でした」
深夜の歌舞伎町での撮影も迫真性が補完されたような気がした。
「夜の歌舞伎町ならではの異質な雰囲気を肌で感じながら演じるリアリティ。『ここにいていいのだろうか?』という日和の葛藤や迷い、その全部を本物の感情として放出する事が出来た」
都内で実施された公開初日舞台挨拶のチケットは完売。撮影の日々を懐かしんで感涙する一幕も。
「役者としてはこれ以上ないありがたい経験をさせていただきました。“特級呪物”がこんなにも愛おしいものに変わるとは…」
ユーモアを交えつつ、池田は苦しみ悩み抜いたあの時間を噛みしめていた。
【池田朱那プロフィル】
いけだ・あかな 2001年10月31日生まれ、群馬県出身。大河ドラマ『青天を衝け』やNetflixシリーズ『今際の国のアリス』など話題作に出演し、注目を集める。