X(旧ツイッター)のアカウントには、トラックを走る自分の動画に混じって、こだわりのネイル姿や好きな女性アイドルのイベントに参加した時の写真が並ぶ。インスタグラムも自作の菓子やお気に入りのアクセサリーなど、陸上以外の投稿が多くを占める。
「長距離選手はストイックなイメージがあるけれど、普段は普通に女性として生きていることを知ってほしくて」。陸上女子長距離の実業団チーム、ユニバーサルエンターテインメントの北川星瑠(ひかる)選手(23)=比叡山高出身=は、同世代と変わらない等身大の自分を交流サイト(SNS)で発信している。
大阪芸大女子駅伝部のエースとして活躍していた2023年7月、大手芸能事務所の松竹芸能に入った。「諦めなければ、自分次第でやりたいことを全部勝ち取れることを証明したい」と、長距離選手とタレントという二つの夢を同時に追う。異色の「二刀流」ランナーにとってSNSは、自身を知ってもらう大切な入り口だ。Xのフォロワー数は1万を超え、TikTok(ティックトック)も使いこなす。
幼少期に子役の経験があり、芸能界は簡単に生き残れる場所ではないことは分かっている。高校から本格的に始めた陸上で全国高校総体(インターハイ)や全国高校駅伝に出場して頭角を現すと、「これを武器にしよう」と考え、戦略的に「二刀流」を志した。
ミュージカルを学ぼうと進んだ大阪芸大では、新型コロナウイルス禍でキャンパスに通えず、外の世界とつながるためスマートフォンのアプリで動画配信を始めた。ラジオ番組のように、陸上を中心に他愛もないことをしゃべり、コメントを書き込むリスナーとやりとりする。徐々にファンが増え、試合前は応援のメッセージが届くようになった。競技場に応援に駆けつけるファンもいる。「自分に愛をくれる仲間。一人じゃないと感じられる」。今も月に数回配信し、ファンと交流を深めている。
芸能事務所に所属した翌月、初めて日本代表として挑んだ世界ユニバーシティー大会の女子ハーフマラソンで優勝を果たした。「もう一度世界で戦いたい」という思いが芽生えた。視線の先には、マラソンへの挑戦と28年ロサンゼルス五輪がある。「期待されるのは幸せなこと。自分のためだけじゃなく誰かの期待に応えたいと思って走れて、すごい糧になる」。SNSのつながりを力に変え、夢に向かい走り続ける。