石破新首相が思い描く「アジア版NATO」構想 台湾有事を引き起こすリスク、韓国の歴史的反発などが障壁に

治安 太郎 治安 太郎

9月27日に行われた自民党総裁選の結果、石破氏が高市氏に逆転勝利し、第102代の総理大臣となった。石破新首相は基本的には岸田前政権の政策を継承していくことになろうが、石破氏についてはアジア版NATOの創設をめぐって今日大きな議論となっている。石破氏は9月27日付の米国シンクタンク「ハドソン研究所」への寄稿で、中国が急速に核戦力を強化し、ロシアと北朝鮮が核技術を中心に軍事協力を深めていることなどに強い懸念を示し、同3カ国に対抗する抑止力を確保する必要性に言及し、アジア版NATOの創設が不可欠だと訴えた。アジア版NATOについて、石破氏は具体的な中身については言及しておらず、専門家の間でも様々な私見がネット上で示されているが、ここではどういったものかを簡単に探ってみたい。

まず、NATOは1949年に誕生した相互防衛を前提とする多国間軍事同盟で、加盟国は北米の米国とカナダと欧州30カ国の計32カ国が加盟する。当初は12カ国だったが、1999年にポーランド、チェコ、ハンガリー、2004年にルーマニア、ブルガリア、そしてエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国が加盟し、NATOは東方へ拡大していった。ロシアによるウクライナ侵攻後には、フィンランドとスウェーデンが急ピッチでNATO加盟手続きを進め、フィンランドが去年4月、スウェーデンが今年3月にそれぞれ加盟を果たし、NATOは32カ国という世界最大の軍事同盟となった。そして、アジア版NATOとの関係で最もポイントになるのがNATO条約第5条だ。NATO条約第5条には、加盟国1国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなし、侵略国家へ反撃などの対応をとる集団的自衛権の行使が明記されている。ウクライナがロシアによる侵攻を許した要因の1つに、ウクライナがNATOに加盟していない点も指摘されるが、集団防衛はNATOの根幹になっている。

これをアジアに作ろうというのが石破首相の構想だ。だが、この実現は難を伴う。まず、石破首相が具体的にどういった構想を抱いているのか現時点では分からないが、アジア版NATOの加盟国は、米国を主導国として、日本、韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドなどが加盟国となり、加盟国間で相互防衛体制を敷くということになろう。しかし、この時点で日本は難題に直面する。日本は2014年7月、当時の第2次安倍政権が集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更を決定したが、「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」などの要件が課せられる極めて限定的な解釈であり、NATOがいう集団的自衛権ほど自由に行使できるものではない。このような状況では、日本がアジア版NATOに加盟しても発足当初からその機能性に疑問が向けられよう。相互防衛を前提とするNATOにおいて、加盟国は集団的自衛権で同じ解釈である必要がある。

また、仮に朝鮮半島で有事が生じ、韓国に対する集団的自衛権の行使として自衛隊が韓国の土を踏み、北朝鮮軍と交戦するとしても、韓国では日本による植民地時代のトラウマから、それに対して強い反発が生じる可能性が高い。そういった反発が強まれば、そもそもアジア版NATOによる集団防衛の機能性が低下し、その脆弱さを露呈することになろう。

さらに、台湾をどう扱うかという問題もあろう。アジア版NATOに参加するのは国家であるが、当然ながら米国や日本、韓国などは台湾を国家としは承認していない。しかし、仮にアジア版NATOに台湾が加盟することになれば、中国はそれを台湾の独立に向けた動きと解釈することは間違いなく、独立に向けた動きに武力行使の可能性を示唆する習政権が、武力による強制阻止に出るリスクは飛躍的に高まろう。アジア版NATOの創設が返って台湾有事のリスクを高める恐れもある。一方、中国を過剰に刺激しないという観点から、台湾はアジア版NATOに加盟しないとしても、台湾有事をめぐる懸念が広がる中、では何のためにそれを作るのかという声が出てくることも考えられ、アジア版NATOと台湾の関係が難しいところだ。

日本を取り巻く安全保障環境が厳しくなる中、アジア版NATOの必要性も理解できるが、その実現は困難を伴い、返って安全保障リスクを高める可能性もあろう。 

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