近年ハラスメント問題が深刻化するなか、取り上げられることが多くなったのが「カスハラ(カスタマーハラスメント)」です。東京都では9月18日開会の都議会定例会に、カスハラ防止に向けた条例案を提出します。成立すればカスハラを禁じる全国初の条例となり、2025年4月に施行する方針です。
有識者による検討部会を経て、都がまとめた条例案には「何人も、あらゆる場においてカスハラを行ってはならない」と明記。顧客や働く人、事業者、都に対し、防止に向けた責務を規定しています。なお罰則はなく、実効性の確保が鍵になっています。
条例が施行された場合の懸念点などについて、社会保険労務士法人レクシードの鈴木教大さんに聞きました。
ーまずクレームとカスハラの違いはどう判断するべきでしょうか
クレームは、商品やサービスに対する正当な不満や改善要求をおこない、特定の問題が解決されれば終了する一過性のものがほとんどです。一方でカスハラは、個人を攻撃したり恐怖や不安を与えたりする行為で、相手の人格・尊厳を傷つける意図が含まれます。
具体的には、必要以上に高圧的な態度で接したり、業務に無関係な個人のプライバシーに関する攻撃をおこなったりする場合がカスハラといえます。
ー今後はカスハラの防止条例で企業側も消費者側もハラスメントの意識は強まりそうですが、懸念点はありますか?
まず法改正がどのように運用されるか、その実効性に対する懸念があります。理由はハラスメント対策で、企業側の業務負担が増加する可能性があるためです。
具体的には従業員への教育や相談窓口の設置、対応マニュアルの作成などが必要になりますが、とくに中小企業はリソース不足により適切な対応が難しい場合があります。
また消費者においては、自分の行動がクレームなのかハラスメントなのかの理解不足によって、不安を感じて正当な意見を伝えにくくなるかもしれません。
ーでは正当なクレームを尊重しつつカスハラを未然に防止するには、どのように対応するべきでしょうか
効率的なハラスメント対策システムの構築と、必要なリソースの確保が求められます。政府や業界団体が中小企業向けの支援策を提供し、法改正の実効性を高める必要があります。
また、企業側が消費者に対してもクレームとハラスメントの違いを明確に説明する機会を設けることが有効です。
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一部の企業では、アンケートによるカスハラの実態の把握や定期的な事例共有、従業員の研修などが実施しており、厚生労働省によるハラスメント対策の総合サイト「あかるい職場応援団」で共有されています。
実際に対応力を強化したことでカスハラの解決につなげている事例もあるため、自社に合った施策の参考となるでしょう。
また人材などのリソース不足の企業にとっては、施策への対応や仕組みの構築が困難な場合もあるかもしれません。健全な企業運営を実施していくため、政府による対策支援も期待したいところです。
◆鈴木教大(すずき・のりひろ)社労士 全国数百社にのぼる顧問企業の支援実績をもつエキスパート。労働保険・社会保険関係の手続きから給与計算、クラウド勤怠管理、行政対応、リスク回避型の就業規則作成支援、退職金制度構築、労働組合(ユニオン)対応まで、幅広くサポートする。