たいていのスーパーマーケットで見かける「お客さまの声」コーナー。置いてほしい商品やサービスのあり方について、買い物客が意見や要望を投函し、それへの返答とセットで掲出することが多く、ついつい足を止めて読んでしまう人もいるそうです。ただ大勢の人が利用する分、心ないクレームもあります。そんな中、主婦の山田さん(仮名)が近所のスーパーで続けた“種まき”が実を結びました。素敵だなと思ったらしっかり言葉にする、お礼を伝えるって大事ですね。
山田さんの近所には、このスーパーと激安系の店があります。価格だけを考えると、後者に軍配が上がるのですが、ひいきにしているのはこのスーパーの方です。夜遅くまで開いており、品切れもありません。定期的にお土産フェアがあり北海道から九州沖縄まで各地の品がそろいます。以前、職場のお土産を買い忘れた時も、お店には故郷の名産(静岡県の「うなぎパイ」)が置かれてあり、事なきを得たそうです。
感謝の気持ちを伝えようと、このスーパーの運営企業のサイトの問い合わせ窓口に、お礼のメールを送り始めました。2021年の年末でした。
怒りのご意見や要望が並んだ掲示板
1年ほど前、そのスーパーに設置された掲示板に驚愕したという山田さん。店員を名指しして「気が利かない」という怒りに満ちた意見や店頭にない商品の入荷を求めるもの。厳しすぎる言葉が並び、返信欄では店側が謝罪していました。そんな掲示板に胸が苦しくなったそうです。
間もなく山田さんは声の受け付け箱に投函を始めました。「お店の雰囲気が良い」「惣菜コーナーの担当者さんに親切にしていただいた」…満足のいく良いサービスを受けると、欠かさずお礼の言葉をつづりました。
「掲示板、変わったかも」と感じたのは半年ほど前。山田さんではない誰かが投稿したお店への感謝の声が並び、最近は怒りのクレームは見かけません。「〇〇の商品が大好きです」「店員の〇〇さんの対応が良いです。忙しい中いつもありがとう」「〇〇さんのレジ対応が完璧でした」「今日も気分よく買い物ができました」というコメントが並ぶそうです。山田さんに聞きました。
「実は私も接客業が長く…」
ー素敵なお店ですね
「レジが終わった後、かごをサッカー台まで運んでくれます。大晦日には店長さんがマイクで『年末最後の大安売りです!お肉がとても安くなっています!僕が買いたいくらいです!』とアナウンスして思わず笑ってしまったことも。賞味期限が近い食品にはシールがついていて、そのシールを集めるとくじ引きが出るのですが、私が1回ガシャポンを回したら、カプセルが2個が出てしまって…。最初のカプセルが2等で、後からのそれが1等でした。申し訳なくて「2等の商品でいいですよ」とお伝えしたのに、店員さんは「1等はレアだから!」と両方の景品をくださったんです。とにかく、お店に行って嫌な思いをしたことが全くありません」
ー働く人たちにとっても職場の雰囲気がいいんでしょうね
「私も接客業をしているから分かるのですが、忙しくて余裕がないお店は店員同士がギスギスして、それがお客さんに伝わるんです。でもこのスーパーは、レジ交代の時の店員さん同士が和やかなやり取りがあったり、売り場で新人に指導している先輩の態度が穏やかであったりして、いい職場なのだなぁというのがとても良く伝わってきます」
ー他のお客さんにも広がったことがすごいです
「感謝の気持ちがお店に伝わり、そしてこのお店の方々の給料やモチベーションが上がったらいいなあと思います。このスーパーに限ったことではありませんが、「お客様のご意見」コーナーにはクレームや改善してほしい点が書かれた紙がずらりと貼られています。それを見るたびに「そこまで言わなくても」「これじゃ店員さんがかわいそう」と思っていました。2016年ごろから、いろんなお店に感謝の気持ちを伝えています。名札で名前を確認できれば、名指しでお礼をメールしています」
もっと褒めよう!
ーお客さま相談室は苦情処理の窓口だけじゃないということですね
「お客さまにどれだけ丁寧に親切を心がけ、心を尽くしても、その場で「ありがとう」は言っていただけても、会社にそれが伝わることはまずありません。お客さま相談室に「〇〇さんの接客が良かった!」なんて連絡が来ることはまあ、本当にまれなのです。だからこそ、親切にしてくださったり、頑張って働いている方を見ると、その頑張りが報われてほしいと強く思います。ご本人に「ご親切にしていただきありがとうございました」と言うだけでなく、「この店員さんはすごくよく親切にしてくださったんですよ」というのが、会社にも伝わったならいいなと思いまして…」
店などに理不尽な要求を突きつけるカスタマーハラスメント。厚生労働省が2020年度、全国の企業と労働者を対象に行った「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に顧客から著しい迷惑行為を1度以上経験した人の割合は15%でした。カスハラは企業の生産性を下げるため社会問題ともなっています。
「褒められるためだけに働いているわけではありませんが、お客さまのご意見箱やお客さま相談室には、お店から受けたサービスでうれしかったことや感謝の気持ちを伝えてほしいです。できれば名指しで。上司にも伝わるし、お客さんにも周知されます。そして何よりそんなコメントをいただいた本人はもっとやる気が出て、もっと頑張ろうと思えます」
接客業に長く従事する者として山田さんの願いです。