40代の会社員Aさんは、現在の会社に20年間勤めています。ある時、Aさんが勤め始めたころから第一線で働いていた社長が、70歳になったことをきっかけに、社長の息子でAさんと同じ40代のCさんを社長に抜擢しました。
Cさんが社長になって半年過ぎたころ、これまで付き合いがあった取引先が倒産した影響で、Aさんが勤める会社の業績が落ち始めます。何とか苦境を乗り切ろうとするために、次第に長時間労働が当たり前の労働環境に変化していきました。またストレスの溜まったCさんからAさんをはじめ、多くの社員がパワハラまがいの扱いを受けはじめます。
会社の未来に不安を感じたAさんの後輩は、会社を見限り次々に退職していきます。それでもAさんは、ブラック企業のような労働環境の中で、歯を食いしばって働き続けました。
周りの仲間たちが会社を辞めていくなかで、なぜAさんはこの会社で働くのでしょうか。ブラック企業に勤めている人が辞められない理由について、キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。
ーブラック企業に勤めている人が会社を辞めないのはなぜなのでしょうか
理由のひとつに「現状維持バイアス」があると考えています。現状維持バイアスとは、未知のものや変化を受け入れず、現状維持を望む心理作用を意味し、心理学や行動経済学での認知バイアスのひとつです。
例えブラック企業であったとしても、退職や転職によって、役職や給料といった待遇が変わってしまうのを回避しようとする心理が働いていると考えられます。
実際にキャリア相談で聞く話としては「転職しようと思っても、今の給料が維持できなくなるのは困る」「役職が下がってしまうのは避けたい」といったものがあります。
ーつまり辞められないものの転職を考えている人もいるということでしょうか
現状に不満を感じて、転職を考えている人もいるのですが、朝から夜遅くまで働いていて、休みも取ることができない状況では、なかなか面接に行くことができないと諦めている人が多いです。
また、40代を超えてくると「年齢的に転職は無理だろう」との理由で、現状を受け入れている人も散見されます。
ー辞めたら会社に迷惑がかかると考えている人も多いのでしょうか
私が直接話を聞いた人の中には、ほとんどいませんでした。周りに気を向けるほどの余裕はなく、いっぱいいっぱいになっている人が多い印象です。そういう人は、誰かへの迷惑というのは考えられないのでしょう。
ブラック企業を辞められない理由としては、現状を維持して変化を恐れるという心理作用と、転職活動をしても上手くいかないだろうという諦めがあると感じています。
ー仕事が忙しい人が転職を考えた場合どのように活動するべきですか?
仕事が忙しく転職活動が難しい場合、転職エージェントを利用するのも有効です。情報を登録しておけば、その人に合う求人情報を提案してくれます。
エージェントによっては最初に面談が必須というところもありますが、現在ではWeb面談に対応している企業も多いため、エージェント会社に出向く必要もありません。転職活動の手間暇を代わりに担ってくれるため、忙しい人におすすめの方法です。
◆七野綾音(しちの・あやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子どもたちが思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。