プーチン大統領がイランに異例の自制要求 イスラエルへの報復回避を呼び掛ける背景に…ウクライナ戦争と中東情勢の複雑な影

治安 太郎 治安 太郎

イスラエルがイスラム主義組織ハマスの最高幹部、イスマイル・ハニヤ氏をイランで暗殺したとされ、イランが軍事的な報復措置をちらつかせる中、ロシアのプーチン大統領がイランの最高指導者ハメネイ師に対して、イスラエルへの報復攻撃で民間人に犠牲が出ないよう自制を強く求めた。ハメネイ師はイランへの報復を宣言していたが、この件でプーチン大統領が自制を呼び掛けたことは極めて異例だ。では、その狙いはどこにあるのか。現時点で2つのことが考えられる。

まず、ウクライナ戦争の影響だ。ロシアによるウクライナ侵攻から今月でちょうど2年半だが、米国はウクライナへの軍事支援を再開し、戦闘を継続する上でロシアとしては他国からの軍備支援を必要としている。ロシアは北朝鮮と接近し、宇宙開発や物資支援の見返りに北朝鮮から弾薬などを調達するなど、北朝鮮はロシアの武器工場のような存在になっている。

それと同じように、ロシアにとってイランも主要な武器供給国で、イランは自爆型武装ドローンなどを供給し、ロシア国内ではイラン製の自爆型武装ドローンを製造する工場も建設されている。そのような中、イランがイスラエルと全面衝突するようになれば、イランからの軍事支援が縮小、最悪停止に追いやられる可能性があり、そうなればイラン製の自爆型武装ドローンなどをウクライナで多用してきたロシアにとっては大きな痛手となる。

また、イスラエルとイランの全面衝突となれば、友好国イランに対して何かしらの軍事支援を行う必要性も生じるため、プーチン大統領としては中東で緊張が拡大することは避けたい。

そして、大国間対立を意識した狙いも見え隠れする。昨年秋以降、イスラエルとパレスチナ側との戦闘が激化しているが、両者の軍事力の差は歴然としているにも関わらず、ネタニヤフ政権は天井のない監獄とも言われるガザ地区へ容赦のない攻撃を続け、罪のない民間人の死亡者数は4万人に上っている。それによってイスラエルへの国際的な批判が広がる中、米国は依然としてイスラエル支持の姿勢に撤しており、イスラム諸国を中心に諸外国の間では米国への不信感、苛立ちも広がっている。そして、今回のイランでのハマス最高幹部殺害についても、米国は両国に自制を呼び掛けるのみで、強硬な行動を続けるイスラエルを本気で批判しない。

このような状況で、ロシアがイランに報復をしないよう自制を呼び掛け、イランがイスラエルに対して“大人の姿勢”で対応すれば、グローバルサウスなど諸外国にはどう映るだろうか。強硬な姿勢に徹するイスラエルを米国が支持し続ければ、それだけ米国への不信感や懐疑心というものは強まるだろう。

今回、プーチン大統領がイランに自制を呼び掛けた背景には、ウクライナ戦争だけでなく、欧米陣営は一線を画す中国、ロシア、イランなどの陣営の方が冷静であることをグローバルサウスなどの諸外国に訴える狙いもあろう。今日の中東で展開される紛争は、時間の経過とともに大国間対立の様相を呈してきている。

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