ウクライナ戦争や台湾情勢に世界の目が集まる中、中東では軍事的衝突により緊張が高まっている。パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスが10月7日早朝、イスラエルに向けて大量のロケット弾を打ち込み、パレスチナ武装勢力のメンバーたちがイスラエル領内に侵入した。軍事力で圧倒的優位に立つイスラエル軍もすぐさま反撃し、これまでのところ双方で1000人以上の市民らが犠牲となった。イスラエル領内に侵入した武装勢力のメンバーらは、イスラエル市民らを人質として拘束し、ガザ地区に輸送したとされ、タイ人やドイツ人など外国人が犠牲となるケースも広がっている。今回もハマスによる攻撃は前例にない規模で、今後の行方が懸念される。
ところで、今回の衝突について、これまでのところ諸外国はどのような姿勢を示しているのか。今回の衝突の発端がハマスによる奇襲攻撃だったことから、米国をはじめ、英国やフランスなど欧米諸国は一斉にイスラエル支持の立場を明確にしている。岸田総理も同様、ハマスやパレスチナ武装勢力による攻撃を非難し、犠牲者の家族に対し哀悼の意を表明している。
一方、中東地域で影響力を強める中国は、イスラエル、パレスチナ双方に対して即時停戦と事態のさらなる悪化を回避するよう呼び掛け、一方に肩入れしない方針を示している。
今年3月、中東の覇権を巡って長年争ってきたサウジアラビアとイランが国交を回復させることを発表した。国交を回復するのは7年ぶりのことで、最近では8月中旬にイランのアブドラヒアン外相がサウジアラビアを訪問し、同国のファイサル外相と会談し、地域の安定と発展のため関係を強化していくことで一致した。
そして、両国の関係改善で重要な役割を果たしたのが中国である。中国は長年イランと良好な関係を維持する一方、近年は経済分野でサウジアラビアへ接近も図り、脱石油の経済多角化を重視するサウジアラビアにとっても中国は重要な存在になっている。中東の地域大国同士の関係を転換させたという意味で、中東地域では中国の存在感は強まっている。今回のイスラエル・パレスチナ間の衝突において、中国が今後どう積極的に仲裁的役割に出るかは分からないが、中東で存在感を強化したい中国にとっては1つの機会とも言えよう。
一方、イスラエル支持の立場を明確にしている米国は、今回のハマスによる攻撃はイスラエルとサウジアラビアの接近を防止する狙いがあったとしている。経済多角化を狙うサウジアラビアは実利重視の側面を重視し、テクノロジー分野で先端を走るイスラエルへの接近を図っている。米国は両国の国交正常化で後押しし、サウジアラビアとの間では防衛条約の締結を目指している。
米国がサウジアラビア重視の姿勢を最近鮮明にしているのは、上述のようにイラン・サウジの関係改善で仲裁役を担った中国の存在がある。これまで中東で影響力を誇ってきた米国は、同地域で影響力を強める中国への警戒感があり、それを抑えるべくサウジ重視の姿勢を取っている。今回のイスラエル・パレスチナ間の衝突を巡る世界の反応を見ていると、中東を巡る米中の覇権競争が滲み出ている。