「コギャル」「着メロ」「企業戦士」すべて死語です!消えゆくことばにスポットを当てた辞典が話題→「これは絶対買う」「うわー!読みたい!」

東寺 月子 東寺 月子

LINEでは「おじさん構文」「おばさん構文」など、中高年に特有の言い回しを揶揄されたりもしますが、実はことばも同様に、気づけば時代遅れとなり、知らぬ間に使っていると「死語!」と言われることも。「そんなん、知らんがな」と言いたい人たちも、ニヤリと読める本が話題となりました。

「めっちゃ楽しい!三省堂のこういうとこが好き」

こんなコメントと共にX(旧Twitter)に投稿されたのは、三省堂が発行した『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』(見坊行徳・三省堂編修所 編著)。このポストは瞬く間に話題となり、たくさんのいいねが集まりました。

「欲しい!」
「言葉は悪いけれど 死語・廃語 辞典ですね 三省堂らしい。私も購入しよう」
「これは面白そう」
「この言葉今でもありそうじゃん…と思って読んでみると、そんな意味が昔あったんだ!?ってなるのが多くて面白い」

コメント欄には、気になるという声から、もう読んだ人の感想などコメントが多数寄せられました。

ちょっと気になって調べてみると、2023年4月3日に発売されるや、好評につき増刷となった知る人ぞ知る人気辞典でした! でも、よく考えたら『三省堂国語辞典』から消えたものを、またかき集めて復活させて辞典にした……ということですよね?! 『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』の発刊に至った経緯や内容について、三省堂のご担当者の方に話を伺いました。

1万項目の中から1千語を厳選

ーーそもそも、辞典から消えた=削除したことばを、なぜ辞典にすることになったのでしょう?

「本書の序文にも述べられていますが、2021年秋、『三省堂国語辞典 第八版』で削除される予定の項目が、テレビの情報番組で取り上げられ話題になったことがきっかけです。その後もこの辞典から消えることばが何度も新聞やテレビなどで紹介され、読者や視聴者の皆様から、『その削除語だけを集めた本を見てみたい』といったご要望を編集部にいただくようになりました。新版の辞典ができると、削除語については宣伝することもなく、ひっそりと消えてゆくものなのですが、言わば路地裏をのぞいてみたいということなんでしょうか。

まずは物書堂が開発したアプリにて『第七版から削除した項目例400』をご紹介しました。その後、書籍にして後世に残すならば、約80年前の『明解国語辞典』から調べてみようと、この辞書の生みの親、育ての親である見坊豪紀先生のご令孫、見坊行徳さんと共に編纂して発刊に至りました」

ーー「消えたことば」として認定する判断基準って難しそうですね

「本書で言う『消えたことば』とは、過去の『三省堂国語辞典』に見出しがあったけれども、どこかの版で削除された項目です。『三省堂国語辞典』は改訂ごとに現実の言語生活を反映すべく、項目の出し入れを機敏に行う国語辞典です。つまり、事実として無数の候補語が眠っているわけです。いちいち調べ上げるのは相当たいへんですが(笑)。

前身の『明解国語辞典』から数えると、歴代の『三省堂国語辞典』で削除された項目は、おそらく延べ10000項目を超えるかと思います。これらすべてを網羅することは現実的でないので、1000項目に絞ることにしました。その採録基準の一つは、『当時の言語生活が偲ばれるような有名なことば』であることです。逆に言うと、当時を知る方、ご高齢の方でもあまりピンと来ないようなものであれば、落選としました。

ただ、その判定は容易ではなく、割愛が惜しまれたものは巻末の『版数別 削除項目(抄)』に掲げました。ここには合計2000項目載っていて、本文での掲載ページを示すノンブルがない語句をご覧いただくと、その例がわかります。例えば、以下のようなものです。

・勤労奉仕、マツダ――――『明解国語辞典 改訂版』(1952)で削除
・木賃ホテル、輪タク―――『三省堂国語辞典 初版』(1960)で削除
・学校園、ズルチン――――『三省堂国語辞典 第二版』(1974)で削除
・常設館、留米――――――『三省堂国語辞典 第三版』(1982)で削除
・炭労、馬鹿ちょん――――『三省堂国語辞典 第四版』(1992)で削除
・厚相、ワリショー――――『三省堂国語辞典 第五版』(2001)で削除
・空気伝染、詰め込み主義―『三省堂国語辞典 第六版』(2008)で削除
・EP、夜学校―――――――『三省堂国語辞典 第七版』(2014)で削除
・豆単、薬原病――――――『三省堂国語辞典 第八版』(2022)で削除」

ーー惜しまれつつも割愛されたものを2000項目、そっと巻末にまとめるのが三省堂さんらしい(笑)! でも一体、どれぐらいのことばが年間に生まれて、消えていくんでしょう?

「見坊豪紀先生は『辞書にのせるべき新規項目は、小型辞書の場合、年間約一千個の割合でふえる』と書き残しています。ただ日本語全体でとなると、マスメディアで伝えられるような公的なことばから、家族や友だち同士で使うプライベートなことばまで、1年間に一体どれほどのことばが生まれているのか、その総量はちょっと想像がつきません。消えていく数についても同様です」

ーーでは、消えることばに、特徴があったりしますか?

「『営団』『小荷物』『紅葉マーク』など、名称変更や制度改正などによって人為的に無くすもの、『MD』『コギャル』『バスガアル』など物や風俗として消えていくものがわかりやすい特徴ですね。そのほかにも『サイノロ』『とちめんぼう』『塞げる』など自然に廃れていくことばがあります。一方で、物理的な音では聞かれなくなっても『チンする』のように今でも使われる語があり、『ナウい』のように死語扱いされながらも世代を超えて通じることばもあり、その分水嶺がどこにあるのかは難しい問題です」

ーー確かに!ことばは変化して生きながらえるものもあるし、早くに消え行くものもある。それが面白いですよね。だからこそ、この辞典の編集は大変そうだと感じますが、多くの人が楽しんでいらっしゃるようです

「本書の出版以来1年余りとなりますが、おかげさまで何度も増刷を重ね、いまだにSNSなどで話題にしてくださり、ありがたい限りです。とりわけ『当時の語彙を持つ人と会話をしているような気分』であるとか『単語の民俗史』などといったご評価に接すると、編集の苦労が報われます。

『三省堂国語辞典』はいわゆる新語・流行語辞典とは異なり、日本語の中核となって少なくとも今後10年は使われるであろうことばを載せるといった基準があり、国語辞典として立項するにはある程度のハードルの高さがあります。そこに載ったことばが削除されるということは、一時代を築いたことばが過去のものになったというメッセージでもあります。一過性の流行語を追憶するのとはまた別次元の、ちょっと変わった追体験が期待できます。ところどころにある大項目の解説やイラストによっても理解が進み、時代の一角を確かに占めた昭和・平成のことばたちを楽しんでいただけるものと思います」

ーー今後もこの辞典は改訂を重ねて発行される予定ですか?

「これについては、読者の皆様がどういったものをお読みになりたいかを検討しつつということになります。一つ考えられるのは、本書の母体となった『三省堂国語辞典』は今後も改訂されてゆくはずなので、将来その改訂で削除された項目の一部を増補する形の『改訂版』はありうるかもしれません。また、弊社では『新明解国語辞典』など、さまざまな辞典類を発行しており、削除語ではない新たな視点から辞書の魅力を伝えることができると思います」

それにしても、「消えていくことばにも寄り添う辞典」が発刊され、愛読される。日本っていう国は、やっぱりことばを大事する国民性があるんだなぁと感じた筆者でした。

辞典というより、ちょっとした読み物としても楽しめるので、子どもや世代の違う人と一緒に読むのも楽しいかもしれません。

三省堂
https://x.com/zousanseido
https://www.sanseido-publ.co.jp

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