「これ進研ゼミでやったところだ!」1980年代に誕生したあの名物漫画、今どうなっている? 担当者に聞いてみた

黒川 裕生 黒川 裕生

「あ、これ進研ゼミでやったところだ!」

小中学生の頃、年に何度か自宅に届く進研ゼミのダイレクトメール(DM)に封入されていた漫画を読んで、この“名言”に心を躍らせた人は少なくないだろう。現在40代の私もそうだ。主人公や設定は毎回違うが、「進研ゼミを始めると、勉強も部活も恋も全てが上手くいく」という展開はほぼ同じ。内心「そんなわけあるかい」と苦笑しつつも、何故か読むのをやめられない不思議な魅力があったのを覚えている。そんな進研ゼミ(の漫画)で育った筆者も今や、小中学生の親。ある日ふと、我が子に進研ゼミのDMが一度も来たことがないことに気づいた。もしや、あの漫画、今はもうなくなってしまったのだろうか?

展開を読者が選べるWeb漫画に移行?

ネットで進研ゼミの漫画を検索すると、「キミだけのストーリーが始まる!」「キミ専用のマンガをつくる」などと謳った中学講座のサイトがヒットした。主人公のニックネームや性別、ストーリー展開を自分で選べる仕掛けが施された「マンガメーカー」で、紙のDMで育った身からすると隔世の感がある。内容に関しては自分が読んでいたものとそう変わらないようにも思えるが、やはり紙のDMは、時代の変化に伴い役割を終えたということなのか。

進研ゼミを発行するベネッセコーポレーションに取材した。

「いや、Webに全面移行したわけではありません。紙のDMと漫画は今も変わらず出していますよ」

そう語るのは、中学講座の担当・梅沢さん。「ご覧いただいたマンガメーカーは2021年の春に公開したものです。Webではそれまでも PDFで漫画を読めるようにするなどの試みをしていて、子供でもインターネットにアクセスするのが当たり前になった2000年代以降、多様なメディアを通じて進研ゼミとの接触機会を増やしてもらうための工夫のひとつです」

進研ゼミの漫画が誕生したのは1980年代半ば

梅沢さんによると、進研ゼミのDMに今のような漫画が登場したのは1980年代半ば。「それまではちょっとした4コマ漫画などを掲載していましたが、それが好評だったので長めの漫画になったようです。とはいえ最初は『テストの点数が悪かったけど進研ゼミをやったら成績上がってよかった』というシンプルなものでした。その後、ページ数やバリエーションが増え、今の形になっていきました」

紙のDMが現役だとわかってちょっと嬉しくなったが、そうなると当然こんな疑問が湧いてくる。どうして我が家には1通も送られてこないのか。

「DMは資料請求など、当社に対して何らかのアクションがあった方にお届けしています。DMが来ていないのであれば、そういう接点がこれまでなかったからではないでしょうか」

た、確かに…。では今、紙のDMはどれくらい発行されている?

「企画によってばらつきはありますが、全国の小中学生がいる家庭のうち、50%程度に届いているというイメージです」

一方、中学生向けのDM制作を担当している竹下さんは、マンガメーカーの狙いについてこう語る。

「子供の家庭環境や悩み、個性が多様化しているので、読む子が自分でストーリーを選べたりすることで、共感度が上がるのではないかと考えました。進研ゼミに興味を持ってもらったり、中学校生活が楽しみになったりするように、新しい試みとして公開しているものです」

では、紙との“棲み分け”は。

梅沢さん「紙のDMは何らかの形で一度興味を持ってくださった人に送っているので、商品についてより詳しい紹介が載っています。その点、マンガメーカーは進研ゼミに興味を持っていただく第一歩。商品の情報を伝えるよりは、中学生活が楽しくなるようなコンテンツであることに主眼を置いています」

シナリオを書いているのは社員

これらの漫画、実は梅沢さんや竹下さんのような社員がシナリオを書き、漫画家に発注しているのだとか。

竹下さん「DMは毎回、どういう子をターゲットにしているかを綿密に設定しています。成績はどれくらいで、流行り物が好きなのか、クールに構えているのか…などなど。そのターゲットの子が、漫画を読んで『自分に近い』と感じたら、共感してもらいやすいですから」

梅沢さん「自分の学生時代とは全くタイプの違う子をターゲットにすることもあります。例えばものすごく頭のいい女子とか(※梅沢さんは男性です)。そういう場合は、対象となる人が読みそうな漫画を研究して、ちゃんとリアルに刺さるように考えてシナリオを書きます。具体的には『別冊マーガレット』だったり、男児向けの『コロコロコミック』だったり。また、最近ではコロナ禍を反映させた設定にするなど、子供たちの気持ちが読んでいて『どうせ嘘じゃん』と冷めたりしないよう気をつけています」

絵を担当する漫画家は固定されているのか。

竹下さん「もちろん新しい漫画家さんにお声掛けすることもありますが、割と固定されていますね。小中高の講座で合計すると何十人かいらっしゃって、描き慣れている漫画家さんに依頼することが多いです。絵柄も『ちゃお』や『コロコロ』のテイストが得意な方には小学講座をお願いしたり。中高生向け、男子向け、女子向けなど、DMをセグメント化することもあるので、それぞれの企画に最適な方に描いていただいています」

ということは、かなり長く描いている人も?

梅沢さん「20年、30年描いている方はいますね」

これまでの「作品」は全部保存されているのか。

梅沢さん「基本的には“広告物”ですので、“漫画作品”として残す意識はあまりないかもしれません。ものすごく古いものは僕も見たことがありません」

伝統芸的な面白さも魅力「漫画は強い」

「これ進研ゼミでやったとこだ!」に象徴されるように、もはや伝統芸的とも言える面白さも魅力だ。

竹下さん「そうなんですよ(笑)。実は今も『進研ゼミを始めて全てがうまく回り、最後は大成功で終わる』という根本の部分はそんなに変わっていないんです。今も昔も『こんなにうまくいくわけないよね』というシビアな感想は目にしますが、それでも『こんなふうにできたらいいな』と気持ちを刺激できている部分はあるはず、と考えています」

梅沢さんも竹下さんも「メッセージを伝えるのに、漫画というツールはとにかく強い」と口を揃える。

「DVDや動画など、子供たちがより身近に感じられるメディアでの展開も進めつつ、DMの漫画はこれからも残り続けると思います」

もはや進研ゼミ程度ではままならない日々を送る40代だが、あの明るい希望に満ちた漫画をまた無性に読んでみたくなった。…疲れているのかな?

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