「ドラえもん のび太の地球交響楽」「バイオハザード4」の裏側には? AIでなく人間だからこその技術…目指すは音響効果で世界一

ゆきほ ゆきほ

音響効果と聞くと、大きな怪獣の叫び声や足音、爆発音をイメージする方が多いのではないでしょうか。実際にはとても複雑で膨大な作業といいます。実写からアニメ、ゲームまで幅広く活躍する音響演出アーティスト、北田雅也さんに話を聞きました。

――映画やドラマは、撮影現場にある大きいマイクで「せーの!」という感じで大半は録音しているのかと思ってました。

北田:実はめちゃくちゃ複雑なレイヤーなんですよ!撮影現場で録音された俳優1人ずつのセリフを調整して、ガヤ音というか、複数の雰囲気の音声も貼る、台詞専門の技術者がいます。

で、そこから効果の担当者が、渋谷だったら渋谷の街中っぽい音とか、あと人間の動作の音を全員分と、ドアの開け閉めとか単発的な効果音や環境音を貼ります。作中のキャラクターが拳銃を持てば、僕らも効果用の拳銃を持って録音するんですよ。どんな質感なのか、重さ、硬さ、世界観なども細かく打ち合わせして作っていきます。それらを持ち寄ってミックスして、やっと作品の音が完成するんです。

――「ドラえもん」などファンタジー作品にある、聞いたことのないような音はどうやって?

北田:人間って、過去に聞いた経験から音の種類や距離を類推します。大抵の戦闘シーンって、武器からの発射、爆発、叫んで倒れる、みたいなプロセスがあるんですが、例えば今回の「映画ドラえもん のび太の地球交響楽」はスライム状の敵に音楽を浴びせて弱体化させるという特殊形態でした。それって実際は何も音が出ないですよね。ただ、ダメージ表現としてエフェクトがかかるという設定だったので、それに合わせれば音は付けられるなと。でも怖い音でもいけないので作りがいがあり楽しかったです。

――効果音の試作機に関するポストは大反響でした。

北田:リングの周りにハンドベルを付けて高速で回転させる装置を作ったんです。スタジオ内では電圧を下げる機械を使って録音しました。その後スタジオの外で同業者に、こんないい音でたぞ!って見せたかったんですよ。試しにフルパワーで回したら、ベルが1個とんでっちゃった(笑)。でもフルパワーで回した時の方がいい音鳴ってましたね。

――楽しかったこと、感動したことは?

北田:会社に6年間勤めた後、1年半くらい休んだんです。その頃「バイオハザード」っていうゲームが出て、何百周もやり込んでました。いつかこんな作品に関わる仕事がしたいと望んでいたところフリーランスになって25年後に、フォーリー(効果音)アーティストとして参加する事ができたことです。あと、「宇宙兄弟」という映画作品で、月までいけた!と喜んでたんですけど、急に劇場版ドラえもんのオファーをいただきました。毎年過去に行ったり宇宙に行ったり、今回はスライムみたいな巨大な敵と闘えてとても楽しいです

――さまざまな作品にかかわっているんですね。

北田:実は僕みたいにアニメも実写もやる音響の人って少ないんです。映像作品の音響制作に関して、経験値というか、能力値として世界一を目指してるので、塚本信也監督、豊田利晃監督のような、映画に情熱を持ってる方からの仕事依頼がきたり。国内外問わず、大作から自主製作の作品まで、内容も予算も作る目的も違う様々な作品に携われてるのがとても嬉しいです。

――これから業界を目指す人にメッセージを。

北田:若い人には「5、6年で獲得できる技術は、AIがやるようになるので仕事にならないよ、と言ってるんです。習得に10年とか15年かかる技術は、人間にしかできない領域があるんじゃないかなと。

AIが自動生成したものって、例えば「美味しいコンビニのごはん」までしかいけない気がしてるんです。でも、もっと美味しいものが食べたいってなったら、個人の趣向に合わせて、素材から集めて調理して提供できる技術が必要になる。そんな技術が獲得できるなら働いていけるはずだよって言ってます。味覚と聴覚で違いますけどね。自分だけの表現を追求する人は、信頼と技術を持つ人間と、新しい物を創造していきたい、と思うのではないでしょうか。

◇ ◇

作品の中のキャラクターが寝床から起き出し、台所まで歩きコップに水を入れて飲む。このさりげない動作にも、いくつもの音が繊細に録音され重なり、更に映像とも重ねて、観客の没入感の為の重要な要素となっているのかもしれません。観客からは見えない途方もない努力とこだわりが隠れているんですね。独自性がある北田さんの作る音は機械に取り代わられることなく、世界に広がり続けるのでしょう。

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