来年2月下旬で、ロシアがウクライナに侵攻してから早くも2年となる。侵攻直後、日本は欧米と足並みを揃え、ロシアへの経済制裁を強化し、ロシア外交官を国外追放にするなど、日露関係は冷戦後最悪なレベルに悪化した。日本は中古車などいわゆる贅沢品の対露輸出を停止し、ロシアに進出する多くの日本企業がロシア市場から撤退した。それからもうすぐ2年となるが、冷戦後最悪な日露関係は現在でも続いている。
一方、それによって北方領土4島の返還という日本外交の悲願は、夢のまた夢となってしまった。昨年3月末、北海道東端の根室市では、市民から地鳴りのような音がして海の方から光のようなものが見えると警察や海上保安庁に通報が相次いだ。海上保安庁の巡視船によると、国後島から照明弾のような光が複数回確認され、ロシア側から国後島の南東部で射撃訓練をするという通知があったという。
また、ロシアは日本周辺の海域で中国との軍事的結束を強く示している。昨年9月、ロシア軍は中国軍とともに日本海やオホーツク海など極東海域で大規模な軍事演習「ストーク2022」を行った。2021年10月には、極東ウラジオストク沖で4日間の日程で戦闘機による射撃や潜水艦による探査などの合同演習が行われ、ロシア軍と中国軍の艦船が北海道の奥尻島南西の日本海で一緒に航行しているのが確認され、その後津軽海峡から太平洋へ抜け、千葉県犬吠埼、伊豆諸島、高知県足摺岬沖へと南下して行った。
ウクライナ侵攻以前から、中露両国は日本周辺海域で協力関係をアピールしてきたが、侵攻によってロシアによる北方領土やその周辺海域での軍事的野心はいっそう強まり、北方領土の軍事拠点化、中国との軍事的協力はいっそう拍車が掛かることだろう。
しかし、ロシアの野心は軍事的なものに留まらない。ロシア政府は近年、ロシア極東への観光振興を進めており、ロシア人の北方領土観光も強化されている。ロシア政府は新たに温泉施設がオープンした国後島や択捉島のビーチなど北方領土の島々の自然を市民にアピールしており、北方領土を訪れるロシア人は2021年に8万3000人、2022年に8万8000人と増加傾向にある。
ウクライナ侵攻によって諸外国との関係が冷え込む中、ロシア人の海外旅行が減少する一方、ロシア政府は国内旅行を推奨している。その中でロシア人の北方領土旅行を強化し、経済的にも領土支配の既成事実化を進める狙いがあるとみられる。
また、北方領土周辺海域で操業する漁師たちからは、安心して漁業ができないとの声が上がっている。日本最東端納沙布岬の海域では、昆布漁を営む漁師がロシア国境警備隊の臨検に遭う回数がウクライナ侵攻後に大幅に増え、侵攻前の2021年に比べ、今年は既に同年の6倍近くの臨検数となっている。国後島周辺の海域で操業する漁師たちは、沿岸警備隊によって拿捕されることを心配しているといい、実際、水揚げ量が減少傾向にあるという。
知床半島からは国後島が目の前に映る。しかし、地理的には近く、昔は日本人が暮らしていた北方4島と日本との分断、分離はいっそう進んでいる。ウクライナ戦争は日本と北方領土との分断をいっそう進めているのだ。