客が来ずに居眠り!?…観客0人でも冷たい水にダイブ レアな実演続ける水族館「気の毒なような爆笑のような」「この体勢は難しい」

二木 繁美 二木 繁美

“実演の見学者0人が確定した世界線の南部ダイバー 私たちの身に起こるのは明日かもしれません”と、静かに水底に沈んで、ダイバーの居眠りポーズのをX(旧Twitter)に投稿したのは、岩手県久慈市にある「もぐらんぴあ水族館」です。

この状況に、「気の毒なような爆笑のような!!」「サカナさんよ、ダイバーさんを応援したげて! 近くだったら見に行くのにー!」などのコメントが寄せられました。研修で南部潜りを体験したという人からは「油断すると浮いてしまうので、このように底に横になるのって難しいんですよね」というコメントも。同館は南部潜りと北限の海女の潜水作業を水中で見られる、世界で唯一の水族館。とてもすごい技術なのに、見学者0とはもったいない……。

当日の状況について、同館学芸員の宇部さんにお伺いしました。

年に数回、あるかないか

いまから約100年前の明治31(1898)年に種市(平内)沖で座礁した貨客船の解体引き揚げ工事のために、房州(千葉)から来た潜水夫が、素潜りしか知らなかった住民にヘルメット式の潜水技術を伝授したのが、南部もぐりの始まりだと言われています。

――この動画が撮られたときは?

「SNS担当者が、南部潜り実演後に撮影しました。土日限定の実演を見られないみなさんに向けて、実演の雰囲気を楽しんでもらうために撮影したものになります。冬は人が来ない閑散期となるので、実演見学者0人の時もあるという悲しい事実も盛り込みつつ、南部潜りの潜水服の重さを見て伝わるようにしました」

――「南部もぐり」では、こういうこと(見学者0)はよくあるのでしょうか。

「年に数回あるかないかですが、たまにあります。冬の閑散期に大雪が降った時などです」

ーー南部潜りのほかに、NHKの朝ドラ「あまちゃん」で有名になった「北限の海女」もありますが、こちらは0のときは?

「南部潜り同様くらいであります。南部潜りは当館の展示課チームがローテーションで潜っています。北限の海女は現役の海女さんの方に毎週お越しいただき、潜っていただいています。まれに訓練を受けた当館の女性スタッフが潜ることもあります」

ーー潜れるスタッフさんがいるのですね、すごい! それぞれの方に、0人のときの感想を教えてもらってもいいですか?

「南部ダイバーの担当者は「ひもじさと、むなしさと、心弱さでヘルメットいっぱい」。海女さんは「残念な気持ちもありつつ、冬は水が冷たすぎるから正直ちょっとうれしい」とコメントしておりました」

ーー当たり前かもしれませんが、プロの方でもやっぱり水の冷たさはこたえるんですね!

都会の水族館にないものを

ーーしかし、水族館で潜水作業を推しているのはめずらしいと思うのですが、その意図は?

「潜水技術を展示する理由は2点あります。1点目は、展示できるものが限られている点です。小さい地方水族館のため、都会のオシャレな水族館のようにイルカなど人気の生き物を飼育する余裕がないからです。

そんな中、当館ならではの展示を探す中で、水族館プロデューサー・中村元さんのご助言もあり、地域の水産文化を伝えるということで再オープン時から始めたのがきっかけです。現在ではお客さんに地下にもぐってもらう(水族館が地下部にあるため)という『もぐらんぴあ』のコンセプトに則したもぐる展示として来館者の方にはご紹介させていただいております」

ーーなるほど、2点目は?

「震災を経てより地域密着への思いが強くなったためです。3.11の東日本大震災では当館も甚大な被害を受け、再開も見通しの立たない状況でした。誰もが大変な中、地域のみなさまに支えられたおかげで、現在も元の場所で開館できています。ですので再オープンが決まった際には、北三陸の水産文化を伝える社会教育施設として地域に根差した貢献を目指しました。水産文化を伝える過程で北三陸の伝統的な文化である一方、認知されていない潜水技術を発信していこうという経緯があります。

少人数という都合上、土日祝限定の実演となるため来館者の方に見てもらう機会は少ないと思いますが、伝統的な装備で 『水にもぐる迫力』をご覧いただければうれしいです」

日本の海を支える潜水士の活躍

――「南部もぐり」は、現在はどのようなことに利用されているのでしょうか。地元の岩手県立種市(たねいち)高校には、全国初の養成コースもあるようですが…。

「南部もぐり発祥の地・洋野町にある種市高校では、潜水士を目指す生徒にこの伝統的な潜水服を経験させることで、ヘルメット式潜水の技術を教育しています。古くは明治31年から100年以上に渡り受け継がれてきた潜水服のため、操作難度は高い分、潜水者の技術が向上し、他の潜水服にも応用が利く、いわば潜水技術習得のための教材として用いられています。その上で、種市高校では実際の現場で用いられる、スキューバ式、フーカー式、全面マスク式など各種潜水方法の訓練も行われています。

そして洋野町では、南部もぐりの生みの親を曾祖父にもつご兄弟が、伝統の文化として引き継ぎ、次代に残すため、南部もぐりの普及活動や天然ホヤ漁など現役で活動されています」

ーーホームページには千葉の潜水夫たちの房州もぐりも出てきますが、日本には地域ごとの「もぐり」が多く存在するのでしょうか。

「私の知る限り「南部もぐり」のように〇〇もぐりと固有名称として現在も存在するものは珍しいのかな、と思います。ただ、私たちが知らないだけで海の中にもぐり、活躍される潜水士の方はたくさんいらっしゃいます。防波堤の土台工事の港湾整備や沈んでしまった船のサルベージ、生態調査など人が海の中にもぐり、作業しなければ成り立たないこともたくさんあります。

日本の海を支えている潜水士について認知していただき、潜水士に興味を持っていただける方が少しでも増えればとてもうれしいです」

ーーもぐらんぴあ水族館での、ほかのおすすめは?

「アクセスが悪い地方の小さい水族館ですが、洞窟に迷い込んだような独特の世界観と地域性いっぱいの水族館です。アシカやイルカなどはいませんが、ヒトとサカナで盛り上げる土日限定のもぐり実演をぜひ見にいらしてください」

1.4万いいねを獲得したこの投稿。南部もぐりの魅力が広がるきっかけになるといいですね。「南部もぐり」と「北限の海女」ともに、実演開始時間の11時30分(南部潜り)、13時30分(北限の海女)にあわせて来館すれば、入館料のみで見ることができます。営業は10時〜16時まで、お休みは、1月9日のほかは、1月中は15日・22日・29日です。

■もぐらんぴあ水族館 https://www.moguranpia.com

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