おせちで「冷凍してはいけない具材」は何ですか? 実は…クリスマスケーキの「生クリーム」「いちご」も難敵 急速冷凍機メーカーに聞いた

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冷凍食品の裏側

コンビニの冷凍ラーメンから「ふるさと納税」の返礼品で送られてくるクール便の特産品まで、身近でありながらどんどん美味しくなっている冷凍食品。自宅で作りおきのおかずを小分けに冷凍して便利に食べている人もいるだろう。しかし、なかには冷凍すると味が落ちてしまう料理や食材も多い。実は正月の定番「おせち」についても、冷凍が難しい具材があるという。

そういえば最近も百貨店が販売した冷凍のクリスマスケーキが崩れた状態で購入者に届けられたことがニュースになった。なにかと話題になる冷凍食品事情について、「超高速凍結技術」を持つ冷凍ベンチャー「ゼロカラ」(荻野龍哉・社長)に取材した。

冷凍しにくいおせちの具とは

ーー 「超高速の凍結技術」とは?

当社は食材を超高速で凍らせる「急速冷凍機」を開発しています。冷凍の品質とは「つくりたて」の味や食感が、解凍した後にも「そのまま」再現できるか。それを左右するのが冷凍のスピードです。

ーー 冷凍すると味が落ちる食材と変わりにくい食材があるのはどうして。

主に「食材の中の水分」の状態によります。たとえば「お肉」を解凍した時に赤い水=ドリップが出ることがありますよね。これは「細胞の中の水分」が凍結することで膨張し、細胞膜がやぶれることが原因で、解凍したときに水分が旨味と一緒に流れ出した状態がドリップです。

ほかには「牛乳」はタンパク質と脂肪などが結合している状態で、これを「エマルジョン」といいます。食材の中で水分が凍ると「エマルジョン」が壊れてタンパク質と脂肪が分離して味が変わる。一度この状態になると、解凍後にいくら混ぜても元に戻ることはありません。その他いくつかの要因がありますが、特に「料理」には多くの食材がいろいろな状態で混ざっているため、味が落ちやすいのです。

ーー たとえば「おせち」のなかで冷凍が難しい具材は?

もっとも難しいのは「根菜系」です。おせちのなかでは「手綱こんにゃく」「たたきごぼう」「里芋の白煮」などは冷凍すると食感が変わりやすい。当社がテストした料理の中でも「筑前煮」はかなりの強敵でした。

なかでも特に冷凍難易度が高いのは「こんにゃく」。食感をそのまま保って冷凍するのは非常に難しい。こんにゃくメーカー様と冷凍こんにゃくを開発した時、何度も失敗して「OK」がもらえた時はものすごくテンションが上がりました。

ーー ということは「おでん」も難しい?

めっちゃくちゃ難しいです。「こんにゃく」だけでなく「たまご」が手ごわい。たまごのエマルジョンは冷凍で壊れやすく、すぐボロボロになります。当社の急速冷凍機はゆで卵の冷凍をクリアできていますが、冷凍のおでんを売っているのを見かけることはほとんどないはずです。

おでんのほかにも、季節商品には冷凍できないものが多い。「クリスマスケーキ」に使われている「生クリーム」も「いちご」のようなフルーツも難しい食材。2月になれば「恵方巻」のシーズンになりますが、その具材の多くが冷凍には不向きです。つまり「売れるとき」に大量に作って、余ったら「捨てる」しかない。

ーー ロスが出やすいと。

逆に言えば、美味しいまま冷凍できれば、作り置きも保存もできる。食品廃棄問題が大きく進展します。もちろんプリンや豆腐、エビチリにとろみを出している片栗粉など、日常的に口にしているもののなかにも冷凍向きでないものはたくさんあります。

冷凍の底力と「最強の敵」

ーー そもそも「冷凍スピード」が上がると何が解決する?

当社は世界最速の急速冷凍を目指して創業しました。日本でも少ない熱交換システムの技術者を抱え、とにかく凍結速度を上げてきた。冷凍におけるほとんどの問題はスピードで解決するからです。

まず味落ちの問題。さきほどあげた「細胞膜」や「エマルジョン」が壊れる原因は冷凍時に起きる水分の膨張で、これを「凍結膨張」といいます。凍結の速度が速いほどその「膨張率」が下がる。つまり作りたてに近い状態で冷凍できる。一般的な冷凍食品は冷凍のデメリットを解消するため、添加物を入れたり細かく刻んで凍りやすくするなどの加工が施されている場合がありますが、そうした加工も減らせます。

次に生産効率。スピードが上がれば大量に生産でき、コストが下がります。当社の急速冷凍機は特殊な液体で凍らせる「液冷式」で、一般的な冷たい空気で凍らせる「空冷式」の冷凍機の8倍程度のスピード。狭い工場でも生産量を増やせるようになりました。

そして美味しいまま冷凍できれば「輸出」できます。

ーー 売る先が地元、国内から海外に広がると。

はい。特に「和食」は2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されてから世界中で需要が伸びています。海外のホテルやレストランで和食を提供することも多くなっています。しかし、現地で和食の食材を調達したり調理することはかなり難しいため、調理済みの和食の冷凍食品の市場が年々拡大しています。当社ではお弁当や日本酒も冷凍できるようになった。もっと増えれば増えるほど、日本の食文化が海外に届くようになります。

ーー いつか冷凍の「おせち」を海外の人が食べるようになるかも。最後に、まだ満足に冷凍できていない「最強の敵」は。

ひとつあげるなら……レタスです。細胞膜がとても薄いためすぐにやぶれてしまう。現在の冷凍スピードではまだクリアできていませんが、2024年はなんとかレタスを美味しいまま凍らせたいですね。

【取材協力】
▽株式会社ゼロカラ
https://zerokarainc.com/

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